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【令和4年度 技術士第二次試験問題 建設部門 必須科目 Ⅰ-1】について考える。【模範解答イメージあり】

〇問題文

 我が国では、技術革新や「新たな日常」の実現など社会経済情勢の激しい変化に対応し、業務そのものや組織、プロセス、組織文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立するデジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進を図ることが焦眉の急を要する問題となっており、これはインフラ分野においても当てはまるものである。

 加えて、インフラ分野ではデジタル社会到来以前に形成された既存の制度・運用が存在する中で、デジタル社会の新たなニーズに的確に対応した施策を一層進めていくことが求められている。

 このような状況下、インフラへの国民理解を促進しつつ安全・安心で豊かな生活を実現するため、以下の問いに答えよ。

(1)社会資本の効率的な整備、維持管理及び利活用に向けてデジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進するに当たり、技術者としての立場で多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。

(2)前問(1)で抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行して生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。

(4)前問(1)~(3)の業務遂行に当たり、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要点、留意点を述べよ。

 

〇問題文把握

まずはしっかり問題文を読み込み、背景・現況などを把握しましょう。

背景:インフラ分野において、DXの推進を図ることが焦眉の急を要する問題であり、また、既存の制度・運用が存在する中で、デジタル社会の新たなニーズに的確に対応した施策を一層進めていくことが求められている。

課題条件:社会資本の効率的な整備、維持管理及び利活用に向けてのDX推進

という情報が問題文から読み取れます。

「既存の制度・運用」に触れる必要がありそうですが、単純に「インフラ分野のDX」についての問題文という解釈でOKでしょう。

 

(1)の問題文では、

「多面的な観点から3つの課題を抽出」と通常パターンですね。

 

(1)の課題を考えるとき、思いつく解決策を先に列挙しておくと展開が楽になります

ですが、令和4年3月に公表された「インフラ分野のDX アクションプラン」を読むと、課題や解決策に該当しそうなものが記載されています。

今回の場合は、この資料に合わせて論理展開することが高得点につながりそうです。

 

【課題候補】として、資料をもとに挙げていくと

①行政手続のデジタル化(手続きなどいつでもどこでも気軽にアクセス)

②情報の高度化とその活用(コミュニケーションをよりリアルに)

③現場作業の遠隔化・自動化・自律化(現場にいなくても現場管理が可能に)

 

【解決策候補】も同様に、資料をもとに挙げていくと

課題①に対応(計5つ)

○物流生産性の向上のための特殊車両の新たな通行制度等

○河川の利用等に関する手続きのデジタル化による国民の利便性向上

○建設業許可等申請手続きの電子化による行政手続きの効率化

など

 

課題②に対応(計23つ)

○水害等リスク情報のわかりやすい3次元表示の推進

○道路分野におけるデータプラットフォームの構築と多方面への活用

○BIM/CIM活用による建設生産システムの効率化・高度化

など

 

課題③に対応(計25つ)

○衛星測位を活用した高精度の遠隔操作・自動化水中施工システムの開発

○建設施工における自動化、自律化の促進

○AI・ICT・新技術の導入による道路の点検・維持管理の高度化・効率化

など

 

と【課題】【解決策】の関係が整理できます。

 

(1)の問題文は「多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ」なので、観点も含めて整理してみると(観点は資料から適当に抜粋)

 

①利便性の観点から、行政手続のデジタル化が課題 

②理解促進の観点から、情報の高度化とその活用が課題

③効率化の観点から、現場作業の遠隔化・自動化・自律化が課題

 

の3つの課題を抽出し、各々を分析(背景・現況・問題発生要因・制約要因など)することで記述できるかと思います。

 

(2)の問題文は「抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ」になっていますが、最も重要としなければならないものは特にない気がします。それなりに理由が述べられれば、どれを選択しても問題ないでしょう。解決策の内容が理解でき、論理展開がスムーズにいくものを選択すれば大丈夫でしょう。

 

(3)の問題文は「すべての解決策を実行して生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ」となっています。

専門技術を踏まえたものが記述できれば高得点も期待できます。

基本的な流れは解決策実行によるプラス効果を波及効果して挙げ、次にマイナス効果を懸念事項として挙げ、その対応策を述べるという手順になります。

波及効果にはマイナス面も存在しますので、マイナス効果=波及効果=懸念事項というパターンも考えられます。

一般的なプラス効果の波及効果はモノ、カネ、ヒトなどの話題(品質がよくなる、経済が潤う、コストダウンにつながる、人手が少なくても対応できる)になることが多いですが、問題文に合わせて調整しましょう。

懸念事項はリスクと基本同じで考えでも問題ないでしょう。

懸念事項候補は「費用(コスト)関連」「人材不足関連」「ノウハウ関連」などが考えられますが、解決策に合わせて考えなくてはいけません。

 

懸念事項が「費用(コスト)関連」 → 対策は「国支援」「民間資金活用」「選択と集中で対象を絞る」など

懸念事項が「人材不足関連」 → 対策は「ナレッジマネジメント活用」「生産性向上」「民間コンサル支援」など

懸念事項が「ノウハウ関連」 → 対策は「国支援」「民間コンサル支援」「社会実験」「講習会」など

懸念事項が「時間関連」 → 対策は「積極的な国主導によるスピードアップ」など

など色々なパターンを準備しておきましょう。

この部分はあらかじめ知識の引き出しを増やしておき、試験本番、臨機応変に対応すべきところだと思います。

 

(4)の問題文は「技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要件、留意点を述べよ」となっています。

これは平成23年に改訂された「技術士倫理綱領の解説」を引用するのが一般的です。

念のためリンク先は

https://www.engineer.or.jp/c_topics/000/attached/attach_25_3.pdf

 

技術者としての倫理の観点については、

(公衆の利益の優先)技術士は公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮する。

 

社会の持続性の観点については、

(持続可能性の確保)技術士は、地球環境の保全等、将来世代にわたる社会に持続性の確保に努める。

 

に書かれている内容と論文全体の内容に沿って記述できれば合格点はもらえるでしょう。

 

以上が問題文を把握し、記述するまでの頭の中の状態です。

 

 

〇記述例

実際の記述例を簡単に記載します。

合格論文ではなく論文イメージであり、たくさんある例の1つです。詳細はご自身で調べ考え、第三者に見てもらうことで上達します。あくまでも参考資料であり、これを暗記して対応しようとしても合格はできません

 

1.課題

(1)行政手続のデジタル化

国土交通省のインフラ分野に係る各種手続の多くは、利用者が行政機関等に直接赴き、紙の書類等を準備した上で対応する必要があり、利用者にとって多くの時間や労力が必要である。また、新型コロナウイルスの感染拡大につながる危険性もある。そのため、紙の書類等の準備も最低限とし、タッチレス等での手続きなど、いつでもどこでも気軽にアクセスできる環境を推進する必要がある。

したがって、利便性の観点から、DXを推進するため、行政手続のデジタル化が課題である。

(2)情報の高度化とその活用

建設生産プロセス(設計・施工等)において、受発注者間や現場の受注者間等の関係者間で、正確でリアルなコミュニケーションを促進することにより、作業の効率化・高度化・省力化や作業員や住民等の安全性や利便性を向上させるとともに、従来以上の関係者間の理解促進・合意形成の円滑化・効率化が期待できる。また、国土交通省を含めた関係機関等が有するインフラに関するデータを公開し、活用しやすい環境作りを進めることにより、データを利活用した国民に対するサービスの向上、新たなサービス創出等への促進・発展が期待できる。

したがって、理解促進等の観点から、DXを推進するため、情報の高度化とその活用が課題である。

(3)現場作業の遠隔化・自動化・自律化

施工現場にいなくても建設機械が自動・自律施工をし、出来形・品質検査等も自動化、遠隔化を可能とすることで、建設従事者の肉体的・精神的な負担軽減、省人化・従事時間の短縮につなげ、工事を効率化し、確実性や作業精度の向上を図ることが期待できる。また、こうした取組を通じて生産性向上や現場環境の改善などにつなげるとともに、建設従事者の業務・働き方を新3K(給与・休暇・希望)に向けて変革し、若手入職者の確保に繋がることも期待できる。

したがって、効率化の観点から、DXを推進するため、場作業の遠隔化・自動化・自律化が課題である。

 

2.解決策

上記課題のうち最も重要と考える課題は「(3)現場作業の遠隔化・自動化・自律化」である。なぜなら・・・(理由を記述)。以下にその解決策を示す。

(1)衛星測位を活用した高精度の遠隔操作・自動化水中施工システムの開発

現場作業の遠隔化・自動化・自律化を推進するための解決策の1つとして挙げられることは、衛星測位を活用した高精度の遠隔操作・自動化水中施工システムの開発である。なぜなら、・・・(理由説明)。

具体的には、準天頂衛星を含む衛星測位と音波による水中測位技術と水中施工機械の遠隔操作技術を組み合わせることにより、海象条件によらず利用可能な高精度の遠隔操作・自動化水中施工システムを開発する。また、高精度の遠隔操作・自動化水中システムの活用により、水中施工の遠隔化・無人化を実現させる。

(2)建設施工における自動化、自律化の促進

現場作業の遠隔化・自動化・自律化を推進するための解決策の1つとして挙げられることは、建設施工における自動化、自律化の促進である。なぜなら、・・・(理由説明)。

具体的には、従来は人が建機に搭乗し操縦することで機械施工を行ってきたところ、機械の自動化・自律化の導入による飛躍的な省人化、生産性向上を図るべく、安全の標準ルールや技術指針等を提案する。また、土木研究所と連携し協調領域の設定、必要な技術基準を整備する。

(3)AI・ICT・新技術の導入による道路の点検・維持管理の高度化・効率化

現場作業の遠隔化・自動化・自律化を推進するための解決策の1つとして挙げられることは、AI・ICT・新技術の導入による道路の点検・維持管理の高度化・効率化である。なぜなら、・・・(理由説明)。

具体的には、ICT施工を推進するとともに、構造物点検や日常の維持管理の高度化・効率化を実現させる。また、デジタル化を通じて、日常の維持管理に係る業務プロセスを抜本的に見直し、異常処理のリードタイムや規制時間などのデータに基づくオペレーションの最適化を図り、異状事象の早期発見・早期処理を実現させる。

 

※具体的内容は資料のコピペなので、実際はご自身の言葉に直して説明してください。

 

3.波及効果、懸念事項への対応策

(1)波及効果

解決策を実行することにより、生産性等が向上するとともに、雇用増加、技術開発等を通じた他産業への波及効果も含めて、我が国の経済成長に寄与する効果が期待できる。

(2)懸念事項への対応策

懸念事項としては、3次元データ等を活用した新技術が大半なので、特に地方中小企業等ではノウハウ不足で対応できないことが考えられる。

対応策としては、国主導で人材育成や研修・講習会を開催し支援する。

 

4.要点、留意点

(1)技術者倫理の観点

 必要となる要点は、公衆の安全、健康及び福利を最優先することである。留意点としては、新技術を優先することで公衆の安全を脅かすことがないように、監視システムなどを強化し、常に最善の提案を行う。

(2)社会持続性の観点

 必要となる要件は、地球環境の保全等、将来世代にわたる社会の持続可能性の確保に努めることである。留意点は、新技術を優先することで地球環境に影響がないか十分に検討し、影響を最小化するよう努める。

 

以上

 

〇まとめ

ざっとまとめてみましたが、これが「正解」というわけではありません。他にもっとよい正解があるかと思います。色々な情報を集め、多くの意見に耳を傾けることによって、更なるレベルアップに努めてください。

 

※最後まで読んでいただきありがとうございます。