〇問題文
橋梁、トンネル等の道路構造物については、平成25年から平成26年にかけての道路法、同施行令及び同施行規則の改正を経て、平成26年度に策定された定期点検要領等に沿って、各道路管理者において点検が実施されており、平成30年度で一巡目の定期点検が完了したところである。道路構造物のメンテナンスを担当する技術者として、以下の問いに答えよ。
(1)地方公共団体が、二巡目となる道路橋の定期点検を実施するに当たって、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。
(2)(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)(2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
〇問題文把握
まずはしっかり問題文を読み込み、背景・現況を把握しましょう。
問題文からわかることといえば、
現況:道路構造物一順目の定期点検完了
時期:二巡目の道路橋定期点検を実施
立場:地方公共団体(国直轄以外)のメンテナンス技術者
という情報ですね。
「維持管理・更新」ではなく「点検」を特に意識する必要がありそうです。(これが難しいですが・・・)
また、文面から「発注者」の立場で考えたほうがスムーズにいきそうです。
(1)の課題を考えるとき、思いつく解決策を先に列挙しておくと展開が楽になります。
【解決策候補】として、思いつくものを挙げていくと、
(参考資料:社会資本メンテナンス戦略小委員会、道路技術小委員会など)
①点検支援新技術の積極的な活用(近接目視を補完・代替・充実する技術の活用、カメラ搭載ドローン、アーム型ロボット、非破壊検査、モニタリングなど)
②データ活用の推進(台帳整理、電子データ化、データベース化、インフラメンテナンス2.0)
③契約方法の拡大(包括委託、共同処理、共同発注)
④人材育成の推進(技術マニュアル・講習会の充実、研修・実施講習の実施、経験者活用促進)
⑤国による費用・人材支援(交付金や交付税、地方債による措置、拡充、人材派遣)
⑥一順目点検結果を踏まえた二巡目点検の効率化、合理化を検討し、点検要領を改定する(特定の溝橋について、変状項目や着目すべき箇所を特定し、打音・触診の省略により作業量を低減)(コンクリート埋込部、PC鋼材及び定着部など、埋込部や引張材を有する部材について、定期点検時の着目箇所や留意事項を充実)
⑦国土交通省技術者資格登録制度の活用に向けての情報提供・周知
⑧積算基準の見直し(形式や規模等に応じた細かな歩掛り設定(特に小規模橋梁や溝橋))
などが挙げられます。
上記解決策候補の【課題】を考えてみましょう。
(【解決策】の反対が【課題】になるイメージで考えるとわかりやすいかもしれません)
(課題が「遂行するもの」なのか「解決するもの」なのかで表現の仕方が変わることにも注意が必要です)
①の課題 → すべての点検を人による近接目視で確認するには費用・時間・人員の負担が大きい。点検結果の質が不安
②の課題 → 点検結果を紙の報告書で管理する地方公共団体が多く、整理・管理が不十分だと利活用が困難。多数の点検箇所を管理するには人員が不足している。管理にコストもかかる
③の課題 → 業務委託、アウトソーシングの活用だけでは人員不足が解消できない
④の課題 → 点検業務に必要な技術系職員が少ない、新技術を扱える人材が少ない
⑤の課題 → 予算及び人手不足で今後の点検を継続して行うのは困難
⑥の課題 → 橋梁形式や規模等に応じて二巡目は点検内容を変えたいが基準(マニュアル)がない
⑦の課題 → 地方自治体では主に指名競争入札を実施しているため、国土交通省技術者資格登録制度が十分に活用されていない
⑧の課題 → 橋梁形式等が違っても積算基準が同じであり適正な部掛りとは思えない
となるかと思います。(ちょっと強引なところもありますね・・・)
上記から【課題】【解決策】を整理すると
・(ヒトの観点) 課題が「人手不足」 → 解決策は①②③④⑤
・(モノの観点) 課題が「基準がない、情報不足」 → 解決策は⑥⑦⑧
・(カネの観点) 課題が「予算不足」 → 解決策①②⑤
・(技術の観点) 課題が「技術力不足」 → 解決策①②
となります。(ちょっと無理がありますかね・・・)
(1)の問題文は「多面的な観点から課題を抽出し分析せよ」なので、
①(ヒトの観点から)技術系職員が少ない(担い手不足)
②(モノの観点から)今の点検要領では対応できない、今の積算基準では対応できない、情報が足りない
③(カネの観点から)予算が足りなく点検を継続できない
④(技術の観点から)点検結果の質が不安
の4つの課題を抽出し、各々を分析(背景・現況・問題発生要因・制約要因など)することで記述できるかと思います。(文字数の問題でこれら全部の課題を記述することは無理かもしれません)
(2)の問題文は「(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ」であるが、最も重要であり複数の解決策がある課題は「技術系職員が少ない」と考えられるので、これを抽出すればよいかと思います。
(3)の問題文は「(2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ」となっており、複数の解決策に共通して新たに生じうるリスクをまずは考えなくてはいけません。
共通して生じる【リスク候補】は前回(道路科目Ⅲ-1で)も話しましたが、「費用(コスト)関連」「人材不足関連」「ノウハウ関連」くらいしか思い浮かびません。
リスクが「費用(コスト)関連」 → 対策は「民間資金活用」「選択と集中」「国支援」など
リスクが「人材不足関連」 → 対策は「ナレッジマネジメント活用」「生産性向上」「民間コンサル発注者支援」など
リスクが「ノウハウ関連」 → 対策は「国支援」「民間コンサル支援」「社会実験」「試行運用」など
の流れくらいしか思い浮かびません。
この部分はあらかじめ知識の引き出しを増やしておき、試験本番、臨機応変に対応すべきところだと思います。
以上が問題文を把握し、記述するまでの頭の中の状態です。
〇記述例
実際の記述例を簡単に記載します。
(合格論文ではなく論文イメージです。詳細はご自身で調べ考え、第三者に見てもらうことで上達します。あくまでも参考資料であり、これを暗記して対応しようとしても合格は不可能です)
1.課題
(1)技術系職員不足
地方公共団体の職員数は年々減少し、そのなかでも技術系職員数は特に減少率が高くなっている。そのような状況のなか、二巡目となる点検業務を実施するには職員不足で困難な地方公共団体が多数存在する。また、点検結果のデータが膨大で管理するには人手が足りず、新たに人材育成したくても教育する機会が少なく、点検業務を継続するには困難な状況になっている。さらに現在も業務委託、アウトソーシングの活用をしているが、それだけでは人員不足が解消できない状況である。
したがって、点検業務を継続するために、技術系職員不足を解消することが課題である。
(課題を「遂行するもの」といた場合の記述方式です。)
(2)点検要領の見直し
一巡目の点検が終わり、今後の意見を聴取した結果、橋梁構造の種類によっては点検項目を省略でき、作業量を低減できることがわかったが、現在の点検要領では省略することはできない仕組みになっている。
したがって、橋梁形式や規模等に応じて点検作業量を低減できるよう点検要領を見直すことが課題である。
(3)積算基準の見直し
一巡目の点検が終わり、今後の意見を聴取した結果、橋梁構造の形式や規模等に応じた積算が可能となることが望ましいという意見が多く挙げられたが、現在の積算基準では対応できない状況である。
したがって、一巡目の点検歩掛り状況を把握し、現在の積算基準を見直すことが課題である。
(4)技術者資格登録制度の情報不足
国土交通省が認定した技術者資格を活用することで点検業務が着実に進捗すると期待していた。しかし、地方公共団体では主に指名競争入札を実施しているため、技術者資格登録制度が十分に活用されていないことがわかった。また、技術者資格登録制度を知らない、活用方法がわからない地方公共団体が多数存在することもわかった。
したがって、技術者資格登録制度をもっと活用させるために、情報不足を解消することが課題である。
(5)予算不足
定期点検をコンサルタントに委託している地方公共団体は多いが、点検頻度や内容面で委託費用が予想以上に負担となり、今後の点検を継続するには厳しい状況になっている。また、点検記録簿を管理する費用も同様に負担になっている。
したがって、点検業務を継続するため、予算不足を解消することが課題である。
(6)技術力不足
点検要領では、すべての点検を人による近接目視で確認することになっているが、目視観測では技術者の力量に左右され、点検結果の質が不安視されている。また、多数の点検結果を紙の報告書で管理する地方公共団体が多く、再利用可能なデータベースの形で管理したいが、その方法がわからない地方公共団体が多く存在している。
したがって、円滑に点検業務を行うために、技術力不足を解消することが課題である。
※実際にはこんなに多く記述するだけ文字数に余裕はありません。
2.解決策
上記課題のうち最も重要と考える課題は「(1)技術系職員不足」である。なぜなら・・・(理由)。以下にその解決策を示す。
(1)点検支援新技術活用
技術系職員が不足するなか、点検業務を実施するための解決策の1つとして挙げられることは、点検支援新技術を積極的に活用することである。なぜなら、点検支援新技術を活用することにより点検を重点化・効率化することができ、点検作業の人員削減が可能となるからである。具体的には、近接目視を補完・代替・充実する技術の活用、カメラ搭載ドローン、アーム型ロボット、非破壊検査、タブレットの活用、モニタリングなど・・・(具体的説明)。
(2)データ活用の推進
技術系職員が不足するなか、点検業務を実施するための解決策の1つとして挙げられることは、点検結果のデータ活用を推進することである。なぜなら、点検結果が紙の報告書だと整理・管理に人手が必要であり、不十分な状態だと利活用が困難になり、さらに人員が必要になってしまうからである。具体的には、情報の電子データ化、データベース化やデータ活用型インフラメンテナンス(インフラメンテナンス2.0)を進め・・・(具体的説明)
(3)契約方法の拡大
技術系職員が不足するなか、点検業務を実施するための解決策の1つとして挙げられることは、契約方法を拡大させることである。なぜなら、業務委託、アウトソーシングの活用だけでなく、さらに契約方法を拡大させることにより、人員削減・負担軽減が可能となるからである。具体的には、包括的民間委託、共同処理体制、共同発注・・・(具体的説明)。
(4)人材育成
技術系職員が不足するなか、点検業務を実施するための解決策の1つとして挙げられることは、人材育成の推進をはかることである。なぜなら、技術系職員を育成することによって技術系職員不足を解消できるからである。具体的には、技術マニュアル・講習会の充実、研修・実施講習の実施及び地方公共団体職員の参加拡大、経験者活用促進・・・(具体的説明)。
(5)人材支援
技術系職員が不足するなか、点検業務を実施するための解決策の1つとして挙げられることは、国などによる人材支援を行うことである。なぜなら、人材支援により地方公共団体の技術系職員不足を解消できるからである。具体的には、技術者派遣制度による人材派遣の活用や直轄診断の更なる活用・・・(具体的説明)。
※実際にはこんなに多く記述するだけ文字数に余裕はありません。
3.リスクと対応
上記で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとして挙げられることは、ノウハウ不足である。なぜなら、地方公共団体では新技術などの情報や活用方法などの経験が乏しく、それを習得するために人員・予算をまわす余裕がないからである。
上記リスクの対策として挙げられることは、国の支援、民間ノウハウの活用である。積極的な国の支援により地方公共団体職員がスムーズにノウハウを習得できる環境づくりを行うとともに、民間のノウハウも活用することで更なる効果アップが期待できる。
※もっとわかりやすいリスクがあるかとは思いますが、今は思い浮かびません。「費用負担」のほうが記述しやすいかもしれません。この部分は人それぞれの記述内容になるかと思います。
〇まとめ
ざっとまとめてみましたが、これが「正解」というわけではありません(レベルの高い模範論文になっているとは自分でも思いません)。他にもっとよい正解があるかと思います。色々な情報を集め、多くの意見に耳を傾けることによって、更なるレベルアップに努めてください。
※最後まで読んでいただきありがとうございます。