〇問題文
我が国の人口は2010年頃をピークに減少に転じており、今後もその傾向の継続により働き手の減少が続くことが予想される中で、その減少を上回る生産性の向上等により、我が国の成長力を高めるとともに、新たな需要を掘り起こし、経済成長を続けていくことが求められている。
こうした状況下で、社会資本整備における一連のプロセスを担う建設分野においても生産性の向上が必要不可欠となっていることを踏まえて、以下の問いに答えよ。
(1)建設分野における生産性の向上に関して、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。
(2)(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)(2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
(4)(1)~(3)を業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。
〇問題文把握
まずはしっかり問題文を読み込み、背景・現況を把握しましょう。
問題文からわかることといえば、
現況:人口減少、働き手減少
目標:生産性を向上させる
立場:建設分野の技術者
という情報ですね。
「生産性向上」がキーワードですね。この言葉で「生産性革命プロジェクト」がピンとこないと、この問題は解くことが難しいでしょう。
また「建設分野」全体の話題であって、「建設現場」限定でないことも注意が必要です。限定してしまうと「i-Construction」だけの話題になってしまいます。
(1)の課題を考えるとき、思いつく解決策を先に列挙しておくと展開が楽になります。
【解決策候補】として、思いつくものを挙げていくと、
(参考資料:国土交通省生産性革命本部 生産性革命プロジェクト)
※生産性革命プロジェクトは20~31個と数が多いので、代表的なものだけ挙げてみます(「道路」に関連したものを優先してみます)。
「社会のベース」
①ピンポイント渋滞対策
②高速道路を賢く使う料金制度
③コンパクト・プラス・ネットワーク
④インフラメンテナンス革命
「産業別」
⑤i-Constructionの「深化」× Open Innovation
⑥物流生産性革命
⑦道路の物流イノベーション
「未来型」
⑧ビッグデータを活用した交通安全対策
⑨クルマのICT革命
などが挙げられます。
上記解決策候補の【課題】を考えてみましょう。
(【解決策】の反対が【課題】になるイメージで考えるとわかりやすいかもしれません)
①の課題 → 移動時間をスムーズにすることにより有効労働時間を増やし生産性向上を図りたいが、道路渋滞で時間短縮ができない。
②の課題 → 東京などの大都市において、通過交通車両が都市中心部に進入し道路渋滞をさらに悪化させてしまうため、有効労働時間が減少し生産性向上が図れない。
③の課題 → 人口減少とともに地方部においては過疎化が進んだため、近くの病院施設などが廃業し、病院や買い物に行くためには遠距離の都市部への移動が強いられている。そのため移動時間や移動費用が負担になり、生産性を悪化させている。
④の課題 → 我が国のインフラは急速に老朽化が進み、維持管理・更新費用が増大するとともに、将来的な担い手不足が懸念されており、このままではインフラの適切な維持・更新ができない。
⑤の課題 → 建設現場の生産性を向上させ、これまでより少ない人数・工事日数で同じ工事量の実施を実現したいが方法がわからない。
⑥の課題 → 近年の我が国の物流は、トラック積載効率が40%に低下するなど様々な非効率が発生している。将来の労働力不足を克服するため、少人数で無駄な時間を省くことで生産性を向上させたいが方法がわからない。
⑦の課題 → トラックの省人化や道路ネットワークの機能強化で時間短縮を図り、トラック輸送の生産性向上を図りたいが方法がわからない。
⑧の課題 → 生活道路における速度超過や急ブレーキ発生等の潜在的な危険箇所を特定し、効果的な交通安全対策により生産性を向上させたいが、従来の方法だと人手や費用負担が大きい。
⑨の課題 → クルマの運転における生産性向上のため、人員を減らすとともに交通事故を減らし、安全性の向上、運送効率の向上、新たな交通サービスの創出などを図りたいが方法がわからない。
となるかと思います。(ちょっと強引なところもありますね・・・)
上記から【課題】【解決策】を整理すると
・(ヒトの観点) 課題が「少ない人手で今までと同じ作業量をこなしたい」 → 解決策は⑤⑥⑦⑧⑨
・(ジカンの観点) 課題が「時間を短縮したい」 → 解決策は①②③⑤⑥⑦
・(カネの観点) 課題が「費用・予算を削減したい」 → 解決策③④⑧
となります。
(1)の問題文は「多面的な観点から課題を抽出し分析せよ」なので、
(課題が「遂行するもの」とした場合)
①(ヒトの観点から) 少ない人手で生産性向上を図りたい
②(ジカンの観点から)時間を短縮して生産性向上を図りたい
③(カネの観点から) 費用・予算を削減して生産性向上を図りたい
の3つの課題を抽出し、各々を分析(背景・現況・問題発生要因・制約要因など)することで記述できるかと思います。
(2)の問題文は「(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ」であるが、「人手削減」「時間短縮」「費用削減」どれでも考えられるので、記述しやすいものを抽出すればよいかと思います。(どれが重要かは特に決まっていないかと思いますが・・・)
(3)の問題文は「(2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ」となっており、複数の解決策に共通して新たに生じうるリスクをまずは考えなくてはいけません。
共通して生じる【リスク候補】は前回(道路科目Ⅲ-1、2)でも話しましたが、「費用(コスト)関連」「人材不足関連」「ノウハウ関連」くらいしか思い浮かびません。
リスクが「費用(コスト)関連」 → 対策は「民間資金活用」「選択と集中」「国支援」など
リスクが「人材不足関連」 → 対策は「ナレッジマネジメント活用」「生産性向上」「民間コンサル発注者支援」など
リスクが「ノウハウ関連」 → 対策は「国支援」「民間コンサル支援」「社会実験」「試行運用」など
の流れくらいしか思い浮かびません。
この部分はあらかじめ知識の引き出しを増やしておき、試験本番、臨機応変に対応すべきところだと思います。
(4)の問題文は「(1)~(3)を業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。」となっており、「技術士倫理綱領」から「公衆の利益の優先」、「公正かつ誠実な履行」、「持続可能性の確保」、「法規の遵守等」、「有能性の重視」などについて述べるのが無難かと思います。本当の正解は何なのか不明ですが・・・
以上が問題文を把握し、記述するまでの頭の中の状態です。
〇記述例
実際の記述例を簡単に記載します。
(合格論文ではなく論文イメージです。詳細はご自身で調べ考え、第三者に見てもらうことで上達します。あくまでも参考資料であり、これを暗記して対応しようとしても合格は不可能です)
1.課題
(1)少人数作業
働き手の減少が続く中、建設現場における生産性を向上させるためには、これまでより少ない人数で同じ工事量をこなす必要がある。また、近年の我が国の物流は、トラック積載効率が40%に低下するなど様々な非効率が発生している中、少人数での作業で今までと同じ作業量をこなすことが必要となってきている。更に、トラックの省人化により、トラック輸送の生産性向上も必要に迫られている。
その他として、生活道路における速度超過や急ブレーキ発生等の潜在的な危険箇所を特定し、効果的な交通安全対策を実施することにより生産性を向上させたいが、人手不足で思うように実施できない状況であり、また、クルマの運転における生産性向上のため、人員を減らすとともに交通事故を減らし、安全性の向上、運送効率の向上、新たな交通サービスの創出なども迫られている。
したがって、働き手の減少が続く中、効率化などによる少人数作業で生産性を向上させることが課題である。
(課題を「遂行するもの」といた場合の記述方式です。)
(2)時間短縮
働き手の減少が続く中、移動時間をスムーズにすることにより有効労働時間を増やし生産性向上を図りたいが、道路渋滞で時間短縮ができず、特に東京などの大都市においては、通過交通車両が都市中心部に進入し道路渋滞をさらに悪化させている。また、人口減少とともに地方部においては過疎化が進んだため、近くの病院施設などが廃業し、病院や買い物に行くためには遠距離の都市部への移動が強いられ、その移動時間も生産性を悪化させている。
建設現場においては、これまでより少ない工事日数で同じ工事量をこなし、生産性を向上する必要性が高まり、また、物流関連においては、無駄な時間を省くことで生産性を向上させる必要も迫られている。更に、道路ネットワークの機能強化で時間短縮を図り、トラック輸送の生産性向上を図ることも迫られている。
したがって、働き手の減少が続く中、効率化などによる時間短縮で生産性を向上させることが課題である。
(3)予算削減
地方部における過疎化の影響で、遠距離の都市部への移動が強いられ、その移動費用が負担になり生産性を悪化させている。また、我が国のインフラは急速に老朽化が進み、維持管理・更新費用が増大するとともに、将来的な担い手不足が懸念されており、税収入が減少している現状のままでは予算不足でインフラの適切な維持・更新ができない状況である。
生活道路においては、効果的な交通安全対策で生産性を向上させたいが、費用負担が大きくスムーズに実施できない状況でもある。
したがって、働き手の減少が続く中、効率化などによる予算削減で生産性を向上させることが課題である。
2.解決策
上記課題のうち最も重要と考える課題は「(1)少人数作業による生産性向上」である。なぜなら・・・(理由)。以下にその解決策を示す。
※「(2)時間短縮」や「(3)予算削減」でも問題ないと思います。
(1)i-Constructionの「深化」× Open Innovation
働き手の減少が続く中、生産性を向上させるための解決策の1つとして挙げられることは、i-Constructionの「深化」× Open Innovationを実施することである。なぜなら、建設現場の生産性を向上させ、これまでより少ない人数・工事日数で同じ工事量の実施を実現することが可能となるからである。具体的には、建設現場のあらゆるプロセスでICTを全面的に活用・・・(具体的説明)・・・2025年度までに建設現場の生産性の2割向上を目指す。
(2)物流生産性革命
働き手の減少が続く中、生産性を向上させるための解決策の1つとして挙げられることは、物流生産性革命の推進を行うことである。なぜなら、物流生産性革命を推進することにより、効率化が図られ、人員削減作業が可能となるからである。具体的には、ドローンによる荷物配送など新技術の活用、関係者の連携・協働による物流効率化、受け取りやすい宅配便、物流システムの国際標準化の推進など「付加価値の向上」・・・(具体的説明)・・・物流事業の労働生産性の2割程度向上を目指す。
(3)道路の物流イノベーション
働き手の減少が続く中、生産性を向上させるための解決策の1つとして挙げられることは、道路の物流イノベーションの推進を行うことである。なぜなら、道路の物流イノベーションを推進することにより、トラックの省人化が図られ、人員削減作業が可能となるからである。具体的には、ダブル連結トラックによる省人化の他、重要物流道路制度等による道路ネットワークの機能強化、物流モーダルコネクトの強化、特大トラック輸送の機動性強化、新東名・新名神の整備促進・機能強化・・・(具体的説明)。
(4)ビッグデータの活用
働き手の減少が続く中、生産性を向上させるための解決策の1つとして挙げられることは、ビッグデータを活用した交通安全対策を行うことである。なぜなら、ビッグデータを活用することにより、効果的な交通安全対策を実施することができ、対策のための人員削減が可能となるからである。具体的には、ビッグデータを活用して、速度超過や急ブレーキ発生等潜在的な危険箇所を特定・・・(具体的説明)。
(5)クルマのICT革命
働き手の減少が続く中、生産性を向上させるための解決策の1つとして挙げられることは、クルマのICT革命の推進を行うことである。なぜなら、クルマのICT革命によるクルマの自動運転を実用化することにより、人員削減が可能となるからである。具体的には、自動運転を実用化することにより、安全性の向上、運送効率の向上、新たな交通サービスの創出等を図り、・・・(具体的説明)。
※実際にはこんなに多く記述するだけ文字数に余裕はありません。
3.リスクと対応
上記で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとして挙げられることは、ノウハウ不足である。なぜなら、特に地方部では新技術などの情報や活用方法などの経験が乏しく、それを習得するために人員・予算をまわす余裕がないからである。
上記リスクの対策として挙げられることは、国の支援、民間ノウハウの活用である。積極的な国の支援により地方部でもノウハウを習得できる環境づくりを行うとともに、民間のノウハウも活用することで更なる効果アップが期待できる。
※もっとわかりやすいリスクがあるかとは思います。「費用負担」のほうが記述しやすいかもしれません。この部分は人それぞれの記述内容になるかと思います。
4.必要となる要件
上記を遂行するに当たり必要となる要件として、「公衆の利益の優先」、「公正かつ誠実な履行」、「持続可能性の確保」などが挙げられる。公衆の安全、健康及び福利を無視して新技術などを活用することは許されないし、技術者として、公正な分析と判断に基づき履行しなくてはならない。また、現在及び将来世代の人々の利益のために、自然環境及び人工的に造られた環境を守り、可能な限りその質を高めるよう努め、さらに、予見し得る環境への影響を可能な限り最小にするよう努めなくてはならない。
※他にも色々あるかと思います。
以上
〇まとめ
ざっとまとめてみましたが、これが「正解」というわけではありません(レベルの高い模範論文になっているとは自分でも思いません)。他にもっとよい正解があるかと思います。色々な情報を集め、多くの意見に耳を傾けることによって、更なるレベルアップに努めてください。
※最後まで読んでいただきありがとうございます。