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【令和6年度 技術士第二次試験問題 建設部門 必須科目 Ⅰ-1】について考える。【模範解答イメージあり】

〇問題文

国が定める国土形成計画の基本理念として、人口減少や産業その他の社会経済構造の変化に的確に対応し、自立的に発展する地域社会、国際競争力の強化等による活力ある経済社会を実現する国土の形成が揚げられ、成熟社会型の計画として転換が図られている。令和5年に定められた第三次国土形成計画では、拠点連結型国土の構築を図ることにより、重層的な圏域の形成を通じて、持続可能な形で機能や役割が発揮される国土構造の実現を目指すことが示された。

この実現のために、国土全体におけるシームレスな連結を強化して全国的なネットワークの形成を図ることに加え、新たな発想からの地域マネジメントの構築を通じて持続可能な生活圏の再構築を図る、という方向性が示されていることを踏まえ、持続可能で暮らしやすい地域社会を実現するための方策について、以下の問いに答えよ。

(1)全体的なネットワークを形成するとともに地域・拠点間の連結及び地域内ネットワークの強化を目指す社会資本整備を進めるに当たり、投入できる人員や予算に限りがあることを前提に、技術者としての立場で多面的な観点から3つ課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。(※)

(※)解答の際には必ず観点を述べてから課題を示せ

(2)前問(1)で抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行して生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。

(4)前問(1)~(3)を業務として遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続性の観点から必要となる要件・留意点を述べよ。

 

 

〇問題文把握

まずはしっかり問題文を読み込み、背景・現況などを把握しましょう。

背景:令和5年に定められた第三次国土形成計画についての内容を問われている。

現状:実現のために、国土全体におけるシームレスな連結を強化して全国的なネットワークの形成を図ることに加え、新たな発想からの地域マネジメントの構築を通じて持続可能な生活圏の再構築を図る、という方向性が示されていることを踏まえ、持続可能で暮らしやすい地域社会を実現するための方策について答える。

という情報が問題文から読み取れます。

国土形成計画は広い範囲の話題が記載されていますので、どの部分を問われているかを意識して問題文を読まないと見当違いの解答になってしまいそうです。

 

(1)の問題文では、

「多面的な観点から3つ課題を抽出」と通常パターンですね。

ただ、「投入できる人員や予算に限りがあることを前提に」という一文が追加されています。

なので、「人が足りない」「予算が足りない」という単純な課題は評価しませんよという注意書きなのでしょう。

「人手不足の観点から○○が課題である。」のような論理展開なら大丈夫かと思われます。

 

課題・解決策を考えるのに参考となるのは、問題文中にも登場している「第三次国土形成計画」になるでしょう。

この膨大な資料の中から、設問(1)で指定しているのは「全体的なネットワークを形成するとともに地域・拠点間の連結及び地域内ネットワークの強化を目指す社会資本整備」が記載されている箇所になるでしょう。

第三次国土形成計画でネットワークに触れている箇所は「全国的な回廊ネットワーク」「日本中央回廊」について記載してある箇所かと思います。

「シームレスな拠点連結型国土」「持続可能な生活圏の再構築」についても記載している箇所であり、問題文とも整合性が合います。

 

ここに記載されている内容を整理すると、

 

①広域的な機能の分散と連結強化

・中枢中核都市等を核とした広域圏の自立的発展、日本海側・太平洋側二面活用等の広域圏内・広域圏間の連結強化を図る「全国的な回廊ネットワーク」の形成

三大都市圏を結ぶ「日本中央回廊」の形成による地方活性化、国際競争力強化

 

②持続可能な生活圏の再構築

・生活に身近な地域コミュニティの再生

・地方の中心都市を核とした市町村界にとらわれない新たな発想からの地域生活圏の形成

 

③東京一極集中の是正

・地方への人の流れの創出・拡大、新たな地方・田園回帰の定着

・首都直下地震等の巨大災害リスクの軽減

 

と関係が整理できそうです。(東京一極集中の是正は、ちょっと強引な解釈の気もしますが・・・)

 

(1)の問題文は「多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ」なので、上記を整理すると

 

①広域レベル(全体的なネットワーク形成)の観点から、広域的な機能を分散し連結を強化することが課題 

②日常的な生活のレベル(地域・拠点間の連結及び地域内ネットワーク)の観点から、持続可能な生活圏を再構築することが課題(← 問題文中の言葉と課題表現が同じなので、少し変えた方がよいかもしれません)

③地方と東京の関係構築の観点から、東京一極集中を是正することが課題

 

の3つの課題を抽出し、各々を分析(背景・現況・問題発生要因・制約要因など)することで記述できるかと思います。

 

解決策も含めて再整理すると、

 

課題①の解決策候補は

・中枢中核都市等を核とした広域圏の自立的発展、日本海側・太平洋側二面活用等の広域圏内・広域圏間の連結強化を図る「全国的な回廊ネットワーク」の形成

三大都市圏を結ぶ「日本中央回廊」の形成による地方活性化、国際競争力強化

 

課題②の解決策候補は

・生活に身近な地域コミュニティの再生

・地方の中心都市を核とした市町村界にとらわれない新たな発想からの地域生活圏の形成

 

課題③の解決策候補は

・地方への人の流れの創出・拡大、新たな地方・田園回帰の定着

・首都直下地震等の巨大災害リスクの軽減

 

と整理できそうです。

 

(2)の問題文は「抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ」になっています。

最も重要としなければならないものは①か②であれば大丈夫のような気がします。

それなりに理由が述べられれば、どちらを選択しても問題ないでしょう。

解決策の内容が理解でき、論理展開がスムーズにいくものを選択すれば大丈夫でしょう。

設問(3)も考慮して選択するのが理想ですが・・・

 

(3)の問題文は「すべての解決策を実行して生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ」となっています。

波及効果が久しぶりに復活しています。

基本的な流れは解決策実行によるプラス効果を波及効果して挙げ、次にマイナス効果を懸念事項として挙げ、その対応策を述べるという手順になります。

波及効果にはマイナス面も存在しますので、マイナス効果=波及効果=懸念事項というパターンも考えられます。

一般的なプラス効果の波及効果はモノ、カネ、ヒトなどの話題(品質がよくなる、経済が潤う、コストダウンにつながる、人手が少なくても対応できる)になることが多いですが、問題文に合わせて調整しましょう。

懸念事項はリスクと基本同じで考えでも問題ないでしょう。

懸念事項候補は「費用(コスト)関連」「人材不足関連」「ノウハウ関連」などが考えられますが、解決策に合わせて考えなくてはいけません。

また、「人員不足」「予算不足」は課題設定時の前提条件になっています。

設問(1)で抽出した課題が「人員不足」「予算不足」を前提にしたものなので、解決策もそれらを考慮したものになっているはずです。

なので、懸念事項(リスク)が「人員不足」「予算不足」だと矛盾した解答になってしまいますので、懸念事項(リスク)として挙げないほうがよいでしょう。

 

一般的な懸念事項(リスク)と対応策の関係は

リスクが「費用(コスト)関連」 → 対策は「国支援」「民間資金活用」「選択と集中で対象を絞る」など

リスクが「人材不足関連」 → 対策は「ナレッジマネジメント活用」「生産性向上」「民間コンサル支援」など

リスクが「ノウハウ関連」 → 対策は「国支援」「民間コンサル支援」「社会実験」「講習会」など

リスクが「時間関連」 → 対策は「積極的な国主導によるスピードアップ」など

など色々なパターンを準備しておきましょう。

※「費用(コスト)関連」「人材不足関連」は来年以降の問題でも使えない可能性が大きいです

この部分はあらかじめ知識の引き出しを増やしておき、試験本番、臨機応変に対応すべきところだと思います。

 

また、採点委員は採点マニュアルに沿って点数を付けているものと考えられます。

ということは、オリジナル案ではなく、資料などで公表している懸念事項(リスク)と対応策が評価対象(高得点)になるものと考えられます

資料の最後の方に「あとがき」や「今後のあり方」「検討事項」などが記載されていることが多いので、そちらを熟読しておくと高得点に結びつくでしょう。

 

(4)の問題文は「技術者としての倫理、社会の持続性の観点から必要となる要件・留意点を述べよ」となっています。

要点になってみたり、要件になってみたり・・・安定しないですね(笑)

これは2023年に改訂された「技術士倫理綱領」を引用するのが一般的です。

念のためリンク先は

https://www.engineer.or.jp/c_topics/001/attached/attach_1285_1.pdf

 

技術者としての倫理の観点については、

(安全・健康・福利の優先)

1.技術士は、公衆の安全、健康及び福利を最優先する。

など

 

社会の持続性の観点については、

(持続可能な社会の実現)

2.技術士は、地球環境の保全等、将来世代にわたって持続可能な社会の実現に貢献する。

に書かれている内容と論文全体の内容に沿って記述できれば合格点はもらえるでしょう。

 

以上が問題文を把握し、記述するまでの頭の中の状態です。

 

 

〇記述例

実際の記述例を簡単に記載します。

合格論文ではなく論文イメージであり、たくさんある例の1つです。詳細はご自身で調べ考え、第三者に見てもらうことで上達します。あくまでも参考例(資料抜粋例、文字数無視)であり、これを暗記して対応しようとしても合格はできません

 

1.課題

(1)広域的な機能の分散と連結強化

 四方を海に囲まれ、北海道・本州・四国・九州・沖縄本島の主要五島と多数の島々から成る南北に細長い日本列島において、人口減少が加速する中にあっても、人々が生き生きと安心して暮らし続けていける、持続可能で多様性に富む強靱な国土の形成を図っていく必要がある。そのため、国土全体にわたって、広域レベルでは人口や諸機能が分散的に配置されることを目指しつつ、連結を強化し、地方活性化、国際競争力強化を図る必要がある。

 したがって、広域レベルの観点から、広域的な機能を分散し連結を強化することが課題である。

(2)持続可能な生活圏の再構築

 中山間地域等では人口減少や少子高齢化等により、都市部では若者世代、ひとり暮らし世帯、居住年数が浅い世帯の混在等により、自治会・町内会等の従来の地域コミュニティが弱体化している。また、今後、人口減少の荒波が小規模都市のみならず地方の日常的な生活サービスの中心となる中規模都市にも及び、生活サービスの利便性の低下が加速することが懸念される。そのため、地方における日常生活を支える各種サービス機能を提供する最後の砦として、ボトムアップから地域が主体的に、新たな発想に立った持続可能な生活圏の再構築を図る必要がある。

 したがって、日常的な生活のレベルの観点から、持続可能な生活圏を再構築することが課題である。

(3)東京一極集中の是正

 東京への人口や諸機能の過度の集中により、地方における人口減少・流出や利便性の低下、地域産業の弱体化等の悪循環が進み、地方の活力喪失に拍車がかかるとともに、首都直下地震等の切迫する巨大災害により、広域かつ長期に及ぶ甚大な被害がもたらされるおそれがある。加えて、コロナ禍を契機として感染症パンデミックに対する過密な都市構造の脆弱性が認識されたところである。こうした国土構造における東京一極集中の弊害にかんがみ、国土全体にわたり人口や諸機能の広域的な分散を図り、東京への過度な集中を是正する必要がある。

 したがって、地方と東京の関係構築の観点から、東京一極集中を是正することが課題である。

 

2.解決策

上記課題のうち最も重要と考える課題は「(1)広域的な機能の分散と連結強化」である。なぜなら・・・(簡単に理由を記述)。以下にその解決策を示す。

(1)全国的な回廊ネットワークの形成

 広域的な機能を分散し連結を強化するための解決策の1つとして挙げられることは、全国的な回廊ネットワークを形成することである。なぜなら、広域圏において多様性に富む自立的な圏域形成が推進されるとともに、質の高い交通やデジタルのネットワーク強化が期待できるからである。

 具体的には、中枢中核都市等の機能の維持・強化を図りつつ、広域圏内の生活圏とのネットワークを強化し、一体的な広域圏の自立的な経済循環システムの構築を図る。また、日本海側と太平洋側の二面を効果的に活用しつつ、内陸部を含めた連結を図り、ヒト・モノの流動を一層活発化させ、地域資源を最大限活用して外からの成長を取り込み、国土全体にわたってイノベーションを創造するとともに、広域にわたる巨大災害におけるリダンダンシーの確保を図る国土全体のネットワーク機能を強化する。

(2)日本中央回廊の形成

 広域的な機能を分散し連結を強化するための解決策の1つとして挙げられることは、日本中央回廊を形成することである。なぜなら、三大都市圏が約1時間で結ばれるとともに、一つの都市圏となり、世界に類を見ない魅力的な経済集積圏域が形成されるからである。

 具体的には、リニア中央新幹線の順次開業を図りつつ、名古屋・大阪の拠点性の向上、リニア駅の交通結節機能の強化や駅周辺の魅力づくりを進め、将来にわたって三大都市圏がそれぞれの特徴を発揮しながら結ばれる新たな交流圏域を形成する。また、段階的に広域的な人流・物流の効率化や東京・名古屋間さらには大阪までも含めたリダンダンシーの強化等を通じて、地方の活性化を図るとともに、4つの主要国際空港、2つの国際コンテナ戦略港湾の機能強化・活用を図り、世界からヒト・モノ・カネ・情報を惹きつけ、我が国全体の国際競争力強化につなげる。

※内容は資料のコピペなので、実際はご自身の言葉に直して説明してください。

 

3.波及効果と懸念事項への対応策

 波及効果として考えられることは、解決策を実行することにより、活発にヒト・モノが流動し、イノベーションが促進されるとともに、災害時のリダンダンシーの確保が期待できることである。

 懸念事項として考えられることは、全国計画のみに基づいてネットワークを形成しても、地方計画との方向性に差異があれば、成長力を高め自立していくことができない可能性があることである。

 その対応策として、広域地方計画協議会等を活用して関係主体間の協働と合意形成を促しつつ、地域特性を明確にした上で、地域発展の方向性等を検討する。

 

4.要件、留意点

(1)技術者倫理の観点

 必要となる要件は、公衆の安全、健康及び福利を最優先することである。留意点としては、ネットワーク形成を優先することで公衆の安全を脅かすことがないように、監視システムなどを強化し、常に最善の提案を行う。

(2)社会持続性の観点

 必要となる要件は、地球環境の保全等、将来世代にわたる社会の持続可能性の確保に努めることである。留意点は、ネットワーク形成を優先することで地球環境に影響がないか十分に検討し、影響を最小化するよう努める。

 

以上

 

〇まとめ

 ざっとまとめてみましたが、これが「正解」というわけではありません。他にもっとよい正解があるかと思います。色々な情報を集め、多くの意見に耳を傾けることによって、更なるレベルアップに努めてください。

 

※最後まで読んでいただきありがとうございます。