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【令和6年度 技術士第二次試験問題 建設部門 必須科目 Ⅰ-2】について考える。【模範解答イメージあり】

〇問題文

 我が国では、年始に発生した令和6年能登半島地震を始め、近年、全国各地で大規模な地震災害や風水害等が数多く発生しており、今後も、南海トラフ地震及び首都直下地震等の巨大地震災害や気候変動に伴い激甚化する風水害等の大規模災害の発生が懸念されているが、発災後の復旧・復興対応に対して投入できる人員や予算に限りがある。そのような中、災害対応におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)への期待は高まっており、既に様々な取組が実施されている。

 今後、DXを活用することで、インフラや建築物等について、事前の防災・減災対策を効率的かつ効果的に進めていくことに加え、災害発生後に国民の日常生活等が一日も早く取り戻せるようにするため、復旧・復興を効率的かつ効果的に進めていくことが必要不可欠である。

 このような状況下において、将来発生しうる大規模災害の発生後の迅速かつ効率的な復旧・復興を念頭において、以下の問いに答えよ。

(1)大規模災害の発生後にインフラや建築物等の復旧・復興までの取組を迅速かつ効率的に進めていけるようにするため、DXを活用していくに当たり、投入できる人員や予算に限りがあることを前提に、技術者としての立場で多面的な観点から3つ課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。(※)

(※)解答の際には必ず観点を述べてから課題を示せ。

(2)前問(1)で抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。

(4)前問(1)~(3)を業務として遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続性の観点から必要となる要件・留意点を述べよ。

 

 

〇問題文把握

まずはしっかり問題文を読み込み、背景・現況などを把握しましょう。

背景:災害対応におけるDXへの期待は高まっており、既に様々な取組が実施。

現状:DXを活用することで、インフラや建築物等について、復旧・復興を効率的かつ効果的に進めていくことが必要不可欠。

課題条件:将来発生しうる大規模災害の発生後の迅速かつ効率的な復旧・復興を念頭

という情報が問題文から読み取れます。

「災害発生後」「DX活用」「インフラや建築物」がキーワードになるでしょう。

事前防災や避難の話題はNG、DXに関する話題以外もNGということでしょう

 

(1)の問題文では、

「大規模災害の発生後にインフラや建築物等の復旧・復興までの取組を迅速かつ効率的に進めていけるようにするため、DXを活用していくに当たり」という記載があります。

この文章の解釈が難しいです。

 

解釈①

大規模災害の発生後にインフラや建築物等の復旧・復興までの取組を迅速かつ効率的に進めるときの課題を抽出し、DXを活用した解決策を挙げよ。(DXが解決策に該当)

 

解釈②

大規模災害の発生後において、DXを活用して迅速かつ効率的に復旧・復興したいが、そのときの課題を抽出し、解決策を挙げよ。(DXそのものが課題に該当)

 

の2パターンの解釈ができます。

文章を前から単純に読むと、②の解釈になる気がします。

解釈②の場合の例として、

災害後の復旧・復興を迅速かつ効率化するため、DXであるICT施工StageⅡを展開したいが、対応できる技術者がいないことが課題。

その解決策は人材育成。

というような論理展開になると思います。

ですが、このような論理展開で3つの課題、複数の解決策、さらにリスク対策を展開するのはかなり難しいと思われます。

そのようなことを議論した資料を私は見た記憶もありませんし・・・

国土交通省では令和5年8月に「インフラ分野のDXアクションプラン2」を策定し、DXをどんどん活用しようと進めているのに、「DXには課題があるので、原因を分析して解決してから活用せよ」というのはDX活用の推進に水を差す内容です。

そのように考えた場合、解釈①のほうが国交省の政策に近い形になり、「現状の課題をDX活用で解決せよ」という解釈になります。

正解がわからないので、今は解釈①で進めていきます。

 

「インフラ分野のDXアクションプラン2」の資料には、災害対応のDXについて記載されています。

「調査」「解析」「査定」「復旧」でのDXを紹介しています。

この4つを課題とした場合のDX活用で解決策を導くパターンで進めてみます。

(このパターンが絶対ということはありません。)

その場合、

課題①:初動段階の観点からDXを活用して調査を迅速化・効率化することが課題

課題②:設計段階の観点からDXを活用して解析を迅速化・効率化することが課題

課題③:確認段階の観点からDXを活用して査定を迅速化・効率化することが課題

課題④:施工段階の観点からDXを活用して復旧を迅速化・効率化することが課題

と整理できます。(観点は適当です)

これから3つ選ぶとなると、課題②は除外したくなりますね・・・

 

「インフラ分野のDXアクションプラン2」において、一般的なインフラ復旧・復興の解決策候補になりそうなものは

・BIM/CIM活用による建設生産システムの効率化・高度化 ← 課題②④に対応

・建設施工における自動化、遠隔化の促進 ← 課題④に対応

・人間拡張技術による建設現場作業のDX ← 課題④に対応

・ICT施工 StageⅡ 作業の効率化から工事全体の効率化へ ← 課題④に対応

・デジタルデータを活用した配筋確認の省力化 ← 課題④に対応

人工衛星の活用による土砂災害の早期把握 ← 課題①に対応

・デジタル技術を活用した災害復旧事業の迅速化 ← 課題①に対応

・情報集約の高度化による災害対応の迅速化 ← 課題①に対応

・高精度な3次元データを活用した土砂災害対応の技術支援 ← 課題①②に対応

・ICTを活用した出来形管理による工事書類のデジタル化 ← 課題④に対応

[その他]

・web会議システム活用 ← 課題③に対応

・i-Con2.0 ← 課題④に対応 

 

でしょうか。

 

(2)の問題文は「抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ」になっています。最も重要としなければならないものは特にないとは思いますが、「調査」「復旧」を課題にすると論理展開が楽かと思います。解決策も複数ありますし・・・。

それなりに理由が述べられれば、どちらを選択しても問題ないでしょう。

解決策の内容が理解でき、論理展開がスムーズにいくものを選択すれば大丈夫でしょう。

 

(3)の問題文は「すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策」となっています。

専門技術を踏まえたものが記述できれば高得点も期待できます。

リスク候補は「費用(コスト)関連」「人材不足関連」「ノウハウ関連」などが考えられますが、解決策に合わせて考えなくてはいけません。

また、「人員不足」「予算不足」は課題設定時の前提条件になっています。

設問(1)で抽出した課題が「人員不足」「予算不足」を前提にしたものなので、解決策もそれらを考慮したものになっているはずです。

なので、リスクが「人員不足」「予算不足」だと矛盾した解答になってしまいますので、リスクとして挙げないほうがよいでしょう。

 

一般例を挙げると、

リスクが「費用(コスト)関連」 → 対策は「国支援」「民間資金活用」「選択と集中で対象を絞る」など

リスクが「人材不足関連」 → 対策は「ナレッジマネジメント活用」「生産性向上」「民間コンサル支援」など

リスクが「ノウハウ関連」 → 対策は「国支援」「民間コンサル支援」「社会実験」「講習会」など

リスクが「時間関連」 → 対策は「積極的な国主導によるスピードアップ」など

など色々なパターンを準備しておきましょう。

※「費用(コスト)関連」「人材不足関連」は来年以降の問題でも使えない可能性が大きいです

この部分はあらかじめ知識の引き出しを増やしておき、試験本番、臨機応変に対応すべきところだと思います。

 

また、採点委員は採点マニュアルに沿って点数を付けているものと考えられます。

ということは、オリジナル案ではなく、資料などで公表しているリスクと対応策が評価対象(高得点)になるものと考えられます

資料の最後の方に「おわりに」や「今後のあり方」「検討事項」などが記載されていることが多いので、そちらを熟読しておくと高得点に結びつくでしょう。

 

(4)の問題文は「技術者としての倫理、社会の持続性の観点から必要となる要件、留意点を述べよ」となっています。

これは2023年に改訂された「技術士倫理綱領」を引用するのが一般的です。

念のためリンク先は

https://www.engineer.or.jp/c_topics/001/attached/attach_1285_1.pdf

 

技術者としての倫理の観点については、

(安全・健康・福利の優先)

1.技術士は、公衆の安全、健康及び福利を最優先する。

など

 

社会の持続性の観点については、

(持続可能な社会の実現)

2.技術士は、地球環境の保全等、将来世代にわたって持続可能な社会の実現に貢献する。

に書かれている内容と論文全体の内容に沿って記述できれば合格点はもらえるでしょう。

 

以上が問題文を把握し、記述するまでの頭の中の状態です。

 

 

〇記述例

実際の記述例を簡単に記載します。

合格論文ではなく論文イメージであり、たくさんある例の1つです。詳細はご自身で調べ考え、第三者に見てもらうことで上達します。あくまでも参考例(資料抜粋例、文字数無視)であり、これを暗記して対応しようとしても合格はできません

 

1.課題

(1)調査の迅速化・効率化

 大規模災害の発生後、TEC-FORCE等によって被災状況の確認が行われるが、実際の現場で紅白ポール等を使って計測しているため、短時間で広範囲の調査ができない状況である。また、人海戦術による被災調査のため、被害全容把握の遅れ、査定準備に多大な労力と時間を消費、再測量や再設計など二度手間が発生している状況である。

 したがって、初動段階の観点からDXを活用して調査を迅速化・効率化することが課題である。

(2)査定の迅速化・効率化

 大規模災害の発生後、災害査定が被災現場で行われるが、被災現場は遠隔地、点在する場合が多く、査定に多大な時間と労力を費やしている状況である。また、被災自治体の負担も大きい状況である。

 したがって、確認段階の観点からDXを活用して査定を迅速化・効率化することが課題である。

(3)復旧・復興の迅速化・効率化

 大規模災害の発生後、復旧・復興工事が行われるが、建設分野は担い手不足が深刻化し、作業員やオペレータが不足しているため、迅速かつ効率的に工事を進めることができない状況である。また、工事を急ぐあまり、安全性が保たれない可能性もある。

 したがって、施工段階の観点からDXを活用して復旧・復興を迅速化・効率化することが課題である。

 

2.解決策

 上記課題のうち最も重要と考える課題は「(1)調査の迅速化・効率化」である。なぜなら・・・(理由を簡単に記述)。以下にその解決策を示す。

(1)デジタル技術の活用

 調査を迅速化・効率化するための解決策の1つとして挙げられることは、デジタル技術を活用した調査である。なぜなら、・・・(簡単に理由を記述)。

 具体的には、UAVを用いた画像撮影やレーザー点群測量、スマートフォンに搭載された高精度なレーザー測量装置(LiDARセンサー)等の技術を活用し、安全に短時間で広範囲な調査を実施する。また、水面下の視認できない被災状況は、音響探査の画像データを用いて的確に把握する。

(2)人工衛星の活用による土砂災害の早期把握

 調査を迅速化・効率化するための解決策の1つとして挙げられることは、人工衛星の活用による土砂災害の早期把握である。なぜなら、・・・(簡単に理由を記述)。

 具体的には、複数の衛星観測(衛星コンステレーション)により観測頻度を増加させるとともに、自動判読技術を活用することにより、SAR画像による早期の土砂移動箇所を把握する。それにより、災害初期の天候・昼夜を問わない土砂災害の把握時間短縮や精度向上による発災後の早急な対策案を練ることができる。

(3)情報集約の高度化

 調査を迅速化・効率化するための解決策の1つとして挙げられることは、情報集約の高度化である。なぜなら、・・・(簡単に理由を記述)。

 具体的には、防災ヘリの映像から、浸水範囲や土砂崩壊部をAIを用いて自動抽出し、被害の概要把握と対策案の迅速化を図る。また、統合災害情報システム(DiMAPS)を用いて、被害・対応状況の集約を迅速化し、人的・物的資源の最適配置による二次災害防止を図り、復旧・復興段階へ早期移行させる。

 

※内容は資料のコピペなので、実際はご自身の言葉に直して説明してください。

 

3.リスクとそれへの対策

(1)リスク

 解決策を実行することにより、災害発生後の迅速かつ効率的な復旧・復興が期待できるが、DXの活用が広まっていない地域で災害が発生した場合、早急に対応できないリスクがある。

(2)対策

 対策としては、戦略的な普及・広報活動を進めるとともに、国以外の発注者・管理者や建設事業者等とも連携した取組とするため、関係団体とも連携を図り、更なる検討を進め、DXの活用を推進する。

 

4.要件、留意点

(1)技術者倫理の観点

 必要となる要件は、公衆の安全、健康及び福利を最優先することである。留意点としては、DX活用を優先することで公衆の安全を脅かすことがないように、監視システムなどを強化し、常に最善の提案を行う。

(2)社会持続性の観点

 必要となる要件は、地球環境の保全等、将来世代にわたる社会の持続可能性の確保に努めることである。留意点は、DX活用を優先することで地球環境に影響がないか十分に検討し、影響を最小化するよう努める。

 

以上

 

〇まとめ

 ざっとまとめてみましたが、これが「正解」というわけではありません。他にもっとよい正解があるかと思います。色々な情報を集め、多くの意見に耳を傾けることによって、更なるレベルアップに努めてください。

 

※最後まで読んでいただきありがとうございます。