〇問題文
世界の地球温暖化対策目標であるパリ協定の目標を達成するため、日本政府は令和2年10月に、2050年カーボンニュートラルを目指すことを宣言し、新たな削減目標を達成する道筋として、令和3年10月に地球温暖化対策計画を改訂した。また、国土交通省においては、グリーン社会の実現に向けた「国土交通グリーンチャレンジ」を公表するとともに、「国土交通省環境行動計画」を令和3年12月に改定した。
このように、2050年カーボンニュートラル実現のための取組が加速化している状況を踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1)建設分野におけるCO2排出量削減及び吸収量増加のための取組を実施するに当たり、技術者としての立場で多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。
(2)前問(1)で抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対応策について述べよ。
(4)前問(1)~(3)を業務として遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要点、留意点を述べよ。
〇問題文把握
まずはしっかり問題文を読み込み、背景・現況などを把握しましょう。
背景:2050年カーボンニュートラル実現のための取組を加速化するため、国土交通省においては、グリーン社会の実現に向けた「国土交通グリーンチャレンジ」を公表するとともに、「国土交通省環境行動計画」を令和3年12月に改定。
課題条件:建設分野におけるCO2排出量削減及び吸収量増加のための取組
という情報が問題文から読み取れます。
「国土交通グリーンチャレンジ」、「国土交通省環境行動計画」の内容を理解していることが前提ということですね。また、「建設分野」「CO2排出量削減及び吸収量増加」というキーワードに注意する必要がありそうです。特に単なる脱炭素化ではなく「吸収量増加」にも触れると高得点が期待できそうです。
(1)の問題文では、
「多面的な観点から3つの課題を抽出」と通常パターンですね。
(1)の課題を考えるとき、思いつく解決策を先に列挙しておくと展開が楽になります。
ですが、問題文にもあるように、令和3年12月に改定された「国土交通省環境行動計画」を読むと、課題や解決策に該当しそうなものが記載されています。
今回の場合は、この資料に合わせて論理展開することが高得点につながりそうです。
【課題候補】として、資料をもとに挙げていくと
①省エネ・再エネ拡大等につながるスマートで強靱なくらしとまちづくり
②グリーンインフラを活用した自然共生地域づくり
③自動車の脱炭素化に対応した交通・物流・インフラシステムの構築
④デジタルとグリーンによる持続可能な交通・物流サービスの展開
⑤港湾・海事分野におけるカーボンニュートラルの実現、グリーン化の推進
⑥インフラのライフサイクル全体でのカーボンニュートラル、循環型社会の実現
【解決策候補】も同様に、資料をもとに挙げていくと
課題①に対応
○住宅・建築物の更なる省エネ対策の強化
○インフラ等を活用した地域再エネの導入・利用の拡大
○脱炭素と気候変動適応策に配慮したまちづくりへの転換
課題②に対応
○流域治水におけるグリーンインフラの活用推進等
○生態系ネットワークの保全・再生・活用、健全な水循環の確保、CO2吸収源の拡大
○ヒートアイランド対策
〇グリーンファイナンスを通じた地域価値の向上
〇グリーンインフラ官民連携プラットフォームの活動拡大等を通じた社会実装の推進
課題③に対応
○次世代自動車の普及促進、自動車の燃費性能の向上
○次世代自動車を活用した交通・物流サービスの推進
○自動車の脱炭素化に対応した都市・道路インフラの社会実装の推進
〇電動車を活用した災害時等の電力供給機能の強化
課題④に対応
〇ソフト・ハード両面からの道路交通流対策
〇公共交通、自転車の利用促進
〇グリーン物流の推進
〇船舶・鉄道・航空の次世代グリーン輸送機関の普及
〇気候変動リスクに対応した交通・物流システムの強靱化
課題⑤に対応
〇カーボンニュートラルポート形成の推進
〇船舶の脱炭素化の推進
〇洋上風力発電の導入促進
〇気候変動リスク等への対応、生態系保全・活用、循環型社会の形成
課題⑥に対応
〇持続可能性を考慮した計画策定、インフラ長寿命化による省CO2の推進
〇省CO2に資する材料等の活用促進及び技術開発等
〇建設施工分野における省エネ化・技術革新
〇インフラサービスにおける省エネ化の推進
〇質を重視する建設リサイクルの推進
と【課題】【解決策】の関係が整理できます。
この中で「建設分野」「CO2排出量削減及び吸収量増加」というキーワードに該当しそうなものを選択しましょう。
(1)の問題文は「多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ」なので、観点も含めて整理してみると(観点は資料から適当に抜粋)
①脱炭素化の観点から、自動車の脱炭素化に対応した交通・物流・インフラシステムの構築が課題
②気候変動への適応の観点から、デジタルとグリーンによる持続可能な交通・物流サービスの展開が課題
③生物多様性の保全の観点から、グリーンインフラを活用した自然共生地域づくりが課題
の3つの課題を抽出し、各々を分析(背景・現況・問題発生要因・制約要因など)することで記述できるかと思います。
(2)の問題文は「抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ」になっていますが、最も重要としなければならないものは特にないとは思います。
国土交通省としては「民生、運輸部門等における脱炭素化」を重視していますので、脱炭素化で展開するのが無難かとは思います。
それなりに理由が述べられれば、どれを選択しても問題ないでしょう。
解決策の内容が理解でき、論理展開がスムーズにいくものを選択すれば大丈夫でしょう。
「CO2吸収量増加」を強調したいのであれば③で展開する必要があるかと思います。
(3)の問題文は「すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対応策」となっています。
専門技術を踏まえたものが記述できれば高得点も期待できます。
リスク候補は「費用(コスト)関連」「人材不足関連」「ノウハウ関連」などが考えられますが、解決策に合わせて考えなくてはいけません。
懸念事項が「費用(コスト)関連」 → 対策は「国支援」「民間資金活用」「選択と集中で対象を絞る」など
懸念事項が「人材不足関連」 → 対策は「ナレッジマネジメント活用」「生産性向上」「民間コンサル支援」など
懸念事項が「ノウハウ関連」 → 対策は「国支援」「民間コンサル支援」「社会実験」「講習会」など
懸念事項が「時間関連」 → 対策は「積極的な国主導によるスピードアップ」など
など色々なパターンを準備しておきましょう。
この部分はあらかじめ知識の引き出しを増やしておき、試験本番、臨機応変に対応すべきところだと思います。
今回の場合は、資料に「今後のフォローアップについて」の記載がありますので、これを利用しても問題ないでしょう。
(4)の問題文は「技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要点、留意点を述べよ」となっています。
これは平成23年に改訂された「技術士倫理綱領の解説」を引用するのが一般的です。
念のためリンク先は
https://www.engineer.or.jp/c_topics/000/attached/attach_25_3.pdf
技術者としての倫理の観点については、
(公衆の利益の優先)技術士は公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮する。
社会の持続性の観点については、
(持続可能性の確保)技術士は、地球環境の保全等、将来世代にわたる社会に持続性の確保に努める。
に書かれている内容と論文全体の内容に沿って記述できれば合格点はもらえるでしょう。
以上が問題文を把握し、記述するまでの頭の中の状態です。
〇記述例
実際の記述例を簡単に記載します。
(合格論文ではなく論文イメージであり、たくさんある例の1つです。詳細はご自身で調べ考え、第三者に見てもらうことで上達します。あくまでも参考資料であり、これを暗記して対応しようとしても合格はできません)
1.課題
(1)自動車の脱炭素化に対応した交通・物流・インフラシステムの構築
運輸部門におけるCO2排出量の大半を占める自動車からの排出量は我が国全体の約16%を占めている一方、電動車を含む次世代自動車の新車販売台数は、全体の約4割にとどまっており、カーボンニュートラルの実現に向けては、次世代自動車の普及を加速することが不可欠である。また、自動走行・デジタル技術の次世代自動車への実装等の新技術活用や、低速走行、ダウンサイジング等の新たなサービス等の地域交通の多様なニーズとも組み合わせ、CO2排出削減と移動の活性化の同時実現を図る新たなモビリティ社会の構築も不可欠である。
したがって、脱炭素化の観点から、CO2排出量削減及び吸収量増加のための取組を実施するため、自動車の脱炭素化に対応した交通・物流・インフラシステムの構築が課題である。
(2)デジタルとグリーンによる持続可能な交通・物流サービスの展開
運輸部門におけるCO2排出量の削減に向けて、自動車単体対策のみならず、アボイド、シフト、インプルーブの複合的な対策の強化が必要である。また、災害時においてエッセンシャルサービスとしての交通・物流サービスが長期にわたり途絶することのないよう、気候変動リスクに対応した交通・物流システムの強靱化を図る必要もある。
したがって、気候変動への適応の観点から、CO2排出量削減及び吸収量増加のための取組を実施するため、デジタルとグリーンによる持続可能な交通・物流サービスの展開が課題である。
(3)グリーンインフラを活用した自然共生地域づくり
CO2吸収源ともなる都市緑化等の推進、SDGsに沿った環境と経済の好循環に資するまちづくり、生物多様性の保全・持続的な活用や生態系サービスの向上など、多面的な地域課題の解決を図り、自然環境の多様な機能を活用したグリーンインフラの社会実装を分野横断・官民連携により推進することが求められている。また、生物多様性の保全・持続可能な利用、生態系サービスの向上も含めた自然共生社会の形成に向けて、生態系ネットワークの保全・再生・活用、健全な水循環の確保を図る必要もある。
したがって、生物多様性の保全の観点から、CO2排出量削減及び吸収量増加のための取組を実施するため、グリーンインフラを活用した自然共生地域づくりが課題である。
2.解決策
上記課題のうち最も重要と考える課題は「(1)自動車の脱炭素化に対応した交通・物流・インフラシステムの構築」である。なぜなら・・・(理由を簡単に記述)。以下にその解決策を示す。
(1)次世代自動車の普及促進、自動車の燃費性能の向上
自動車の脱炭素化に対応した交通・物流・インフラシステムを構築するための解決策の1つとして挙げられることは、次世代自動車の普及促進、自動車の燃費性能の向上である。なぜなら、・・・(理由説明)。
具体的には、事業用のバス・トラック・タクシー等への次世代自動車の普及促進を図るとともに、技術中立的な燃費規制を活用し、あらゆる技術を組み合わせて、効果的にCO2排出削減を進めていくため、自動車の製造事業者等に対し、2030年度を目標年度とする新たな燃費基準の達成を通じた新車の燃費向上を促していく。さらに、電動車取得に合わせて高速道路利用時のインセンティブを付与することにより、一般道路から高速道路への交通転換による排出ガスの削減や電動車の普及促進を図る。
(2)次世代自動車を活用した交通・物流サービスの推進
自動車の脱炭素化に対応した交通・物流・インフラシステムを構築するための解決策の1つとして挙げられることは、次世代自動車を活用した交通・物流サービスの推進である。なぜなら、・・・(理由説明)。
具体的には、荷主や消費者等における物流サービスの脱炭素化ニーズの高まりに対応し、地域内輸配送の電動化、長距離輸送における燃料電池トラックの開発・普及など、次世代自動車活用の取組を推進する。また、自動運転等の新技術を活用した移動の安全性・利便性の向上や移動時間の活用の革新等に資する移動サービスの変革の動きを踏まえ、次世代自動車の活用も含めた自動運転技術の社会実装など、自動化による新たな輸送システムの導入促進を図る。
(3)自動車の脱炭素化に対応した都市・道路インフラの社会実装の推進
自動車の脱炭素化に対応した交通・物流・インフラシステムを構築するための解決策の1つとして挙げられることは、自動車の脱炭素化に対応した都市・道路インフラの社会実装の推進である。なぜなら、・・・(理由説明)。
具体的には、電気自動車等の普及促進に向け、EV充電施設が少ない地域の幹線道路等において充電施設案内サインの整備の推進やEV充電器の公道設置社会実験を行うとともに、走行中給電システム技術については、2020年代半ばの実証実験の開始を目指した給電システムを埋め込む道路構造の開発を含めた研究開発支援を推進する。
※具体的内容は資料のコピペなので、実際はご自身の言葉に直して説明してください。
3.リスクとそれへの対応策
(1)リスク
解決策を実行することにより、2050年カーボンニュートラル実現のための取組が加速化されるが、政府の環境・エネルギー政策の動向など国内外の様々な状況の変化によって効果が低減するリスクが考えられる。
(2)対応策
対応策としては、毎年度、施策の実施状況やグリーン社会の実現に向けた効果や課題等について点検・公表を行い、効果的な施策への優先順位づけも考慮しつつ、適切に進捗管理を行う。
4.要点、留意点
(1)技術者倫理の観点
必要となる要点は、公衆の安全、健康及び福利を最優先することである。留意点としては、脱炭素化を優先することで公衆の安全を脅かすことがないように、監視システムなどを強化し、常に最善の提案を行う。
(2)社会持続性の観点
必要となる要点は、地球環境の保全等、将来世代にわたる社会の持続可能性の確保に努めることである。留意点は、脱炭素化を優先することで地球環境に影響がないか十分に検討し、影響を最小化するよう努める。
以上
〇まとめ
ざっとまとめてみましたが、これが「正解」というわけではありません。他にもっとよい正解があるかと思います。色々な情報を集め、多くの意見に耳を傾けることによって、更なるレベルアップに努めてください。
※最後まで読んでいただきありがとうございます。