〇問題文
我が国は、暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象に起因する自然災害に繰り返しさいなまれてきた。自然災害への対策については、南海トラフ地震、首都直下地震等が遠くない将来に発生する可能性が高まっていることや、気候変動の影響等により水災害、土砂災害が多発していることから、その重要性がますます高まってきている
こうした状況下で、「強さ」と「しなやかさ」を持った安全・安心な国土・地域・経済社会の構築に向けた「国土強靭化(ナショナル・レジリエンス)を推進していく必要があることを踏まえて、以下の問いに答えよ。
(1)ハード整備の想定を越える大規模な自然災害に対して安全・安心な国土・地域・経済社会を構築するために、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。
(2)(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)(2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
(4)(1)~(3)を業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。
〇問題文把握
まずはしっかり問題文を読み込み、背景・現況を把握しましょう。
問題文からわかることといえば、
現況:自然災害が繰り返し起きている、大地震の発生可能性大
目標:ハード整備の想定を越える大規模な自然災害に備える
という情報ですね。
キーワードは「国土強靭化」ですね。この言葉で「国土強靱化基本計画の見直し(防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策)」がピンとこないと、この問題は解くことが難しいでしょう。
また「ハード整備の想定を越える大規模な自然災害」を意識する必要もありそうです。
(1)の課題を考えるとき、思いつく解決策を先に列挙しておくと展開が楽になります。
【解決策候補】として、思いつくものを挙げていくと、
(参考資料:「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」の概要)
「ソフト対策」災害発生時に命を守る情報発信の充実
①命を守るために必要なリスク情報の徹底的な周知(ハザードマップによる徹底的な周知)
②迅速な避難につながる河川情報の提供(河川監視カメラの増設など)
③土砂災害から命を守る情報の充実(土砂災害警戒判定メッシュの高精度化)
「ソフト対策」利用者の安全確保、迅速な復旧等に資する体制強化
④外国人旅行者等への情報提供体制の確保(クルーズターミナル、新幹線、空港の情報提供体制強化)
⑤全天候型ドローン等による情報収集(強風時など様々な環境に対応できるドローンの広域配備)
⑥無電柱化(地方自治体の無電柱化促進)
「ハード対策」防災のための重要インフラ等の機能維持
⑦水害・土砂災害から命を守るインフラ強化(氾濫危険性解消、堤防強化、砂防堰堤整備など)
⑧災害時にインフラの機能を維持するための電源確保(非常用電源等確保)
「ハード対策」国民経済・生活を支える重要インフラ等の機能維持
⑨交通ネットワークの強化(道路法面・盛土対策、道路橋耐震化など)
⑩経済・生活を支える身近なインフラの強化(密集市街地解消など)
などが挙げられます。
上記解決策候補の【課題】を考えてみましょう。
(【解決策】の反対が【課題】になるイメージで考えるとわかりやすいかもしれません)
①の課題 → 洪水や津波など人命に関わるリスク情報がすべての住民に伝わらず迅速に避難できない。
②の課題 → 河川の氾濫情報不足により周辺住民が迅速に避難できない。
③の課題 → 土砂災害の発生のおそれを的確に判定できないため情報発信が遅れ迅速に避難できない。
④の課題 → 外国人旅行者等への情報提供体制が不十分なため外国人旅行者の安全確保ができない。
⑤の課題 → 台風などによる強風時に災害現場などの情報を収集したいが、現地確認する人の安全が確保できず情報収集できない。
⑥の課題 → 地震等による電柱倒壊で避難経路が閉塞されるのを防止するため無電柱化を推進したいが、地方部では対応できる技術職員が不足し、避難経路の安全確保ができない。
⑦の課題 →流下阻害や局所洗掘等によって、洪水氾濫による著しい被害が生じる等の河川が多数存在し危険。バックウォーター現象等により氾濫した場合、甚大な人命被害等が生じる恐れのある区間を有する河川が多数存在し危険。地域の避難所や避難路が限られており、土砂災害に伴い被害が生じると、避難に困難が生じる箇所等が多数存在し危険。
⑧の課題 → 地震などで電力提供が停止すると、気象・地震等観測施設などの情報も停止し、人命に危険を及ぼす。
⑨の課題 →土砂災害等の危険性が高く、鉄道近接や広域迂回など社会的影響が大きい箇所が多数存在し危険。緊急輸送道路上にあり、今度30年間に震度6以上の揺れに見舞われる確率が26%以上の地域にあり、事業実施環境が整った橋梁で耐震対策未実施の施設が多数存在し危険。
⑩の課題 →地震等による大規模火災が発生すると、密集市街地では被害が大きく危険。
となるかと思います。(ちょっと強引なところもありますね・・・)
上記から【課題】【解決策】を整理すると
・(情報発信の観点) 課題が「情報発信を充実させたい」 → 解決策は①②③
・(安全確保の観点) 課題が「安全を確保したい」 → 解決策は④⑤⑥
・(機能維持の観点) 課題が「重要インフラの機能を維持したい」 → 解決策⑦⑧⑨⑩
となります。
(1)の問題文は「多面的な観点から課題を抽出し分析せよ」なので、
①(情報発信の観点から) 情報発信充実による住民の迅速な避難行動で被害を軽減させたい。
②(安全確保の観点から) 利用者の安全確保体制を強化し、被害を軽減させたい。
③(機能維持の観点から) 重要インフラ等の機能を維持し、被害を軽減させたい。
の3つの課題を抽出し、各々を分析(背景・現況・問題発生要因・制約要因など)することで記述できるかと思います。
(2)の問題文は「(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ」であるが、昨年の災害から「重要インフラ等の機能を維持」が最も重要だと思います。西日本豪雨で河川の氾濫、浸水災害、土砂災害が多発したり、北海道胆振東部地震で北海道全域がブラックアウトになったり、台風直撃で関空水没・停電・塩害被害がありました。重要インフラ機能を維持できないことからによる被害の拡大だったと思います。
(3)の問題文は「(2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ」となっており、複数の解決策に共通して新たに生じうるリスクをまずは考えなくてはいけません。
共通して生じる【リスク候補】は前回でも話しましたが、「費用(コスト)関連」「人材不足関連」「ノウハウ関連」くらいしか思い浮かびません。
リスクが「費用(コスト)関連」 → 対策は「民間資金活用」「選択と集中」「国支援」など
リスクが「人材不足関連」 → 対策は「ナレッジマネジメント活用」「生産性向上」「民間コンサル発注者支援」など
リスクが「ノウハウ関連」 → 対策は「国支援」「民間コンサル支援」「社会実験」「試行運用」など
の流れくらいしか思い浮かびません。
この部分はあらかじめ知識の引き出しを増やしておき、試験本番、臨機応変に対応すべきところだと思います。
(4)の問題文は「(1)~(3)を業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。」となっており、「技術士倫理綱領」から「公衆の利益の優先」、「公正かつ誠実な履行」、「持続可能性の確保」などについて述べるのが無難だと思います。本当の正解は何なのか不明ですが・・・
以上が問題文を把握し、記述するまでの頭の中の状態です。
〇記述例
実際の記述例を簡単に記載します。
(合格論文ではなく論文イメージです。詳細はご自身で調べ考え、第三者に見てもらうことで上達します。あくまでも参考資料であり、これを暗記して対応しようとしても合格は不可能です)
1.課題
(1)情報発信充実
大規模な自然災害が予想されるとき、洪水や津波など人命に関わるリスク情報を住民に伝え、迅速な避難を強く促したいが、すべての住民にうまく周知できていない状況である。また、河川の氾濫情報不足により周辺住民が迅速に避難できず、さらに、土砂災害の発生のおそれを的確に判定できないため情報発信が遅れ、迅速な避難を促せない状況でもある。
したがって、災害被害を軽減させるために、情報発信を充実させ迅速な避難行動を促すことが課題である。
(課題を「遂行するもの」といた場合の記述方式)
(2)利用者安全確保
災害発生時、空港や新幹線駅などにおいて、外国人旅行者等への多言語に対応した情報提供体制が不十分であり、外国人旅行者の安全が十分に確保できていない状況である。また、台風などによる強風時には、災害現場などの情報を早急に収集し対応策を講じたいが、現地確認する人の安全が確保できず対応策が遅くなってしまう。さらに、地震等による電柱倒壊で避難経路が閉塞されるのを防止するため無電柱化を推進したいが、地方部では対応できる技術職員が不足し、避難経路利用者の安全確保ができていない状況でもある。
したがって、災害被害を軽減させるために、利用者の安全確保体制を強化することが課題である。
(3)重要インフラ等機能維持
点検結果から、バックウォーター現象等により氾濫した場合、甚大な人命被害等が生じる恐れのある区間を有する河川が多数存在することがわかった。また、緊急輸送道路上の今後30年間に震度6以上の揺れに見舞われる確率が26%以上の地域にあり、事業実施環境が整った橋梁で耐震対策未実施の施設が多数存在していることもわかった。
その他、地震などで電力提供が停止すると、気象・地震等観測施設などの情報も停止し、被害が拡大するとともに、大規模火災が発生すると、密集市街地では被害が大きく危険な状況でもあることもわかった。
したがって、災害被害を軽減させるために、災害が発生しても重要インフラ等の機能を維持することが課題である。
2.解決策
上記課題のうち最も重要と考える課題は「(3)重要インフラ等機能維持」である。なぜなら、近年、西日本豪雨で河川の氾濫、浸水・土砂災害が多発、北海道胆振東部地震で北海道全域がブラックアウト、台風直撃で関空水没・停電・塩害被害など重要インフラ機能を維持できないことによる被害の拡大が問題になったからである。
以下にその解決策を示す。
(1)水害・土砂災害から命を守るインフラの強化
重要インフラ等の機能を維持し、災害被害を軽減させるための解決策の1つとして挙げられることは、水害・土砂災害から命を守るインフラを強化することである。なぜなら、バックウォーター現象等による河川の氾濫や土砂災害による避難所・避難路が被災するのを防ぎ、災害被害を軽減させることが可能となるからである。具体的には、堤防決壊が発生した場合に湛水深が深く、特に多数の人命被害等が生じる恐れのある区間の堤防強化対策・・・(具体的説明)
(2)交通ネットワーク強化
重要インフラ等の機能を維持し、災害被害を軽減させるための解決策の1つとして挙げられることは、交通ネットワークを強化することである。なぜなら、1日でも早く平常の暮らしや経済を取り戻すための迅速な復旧・復興を強力に進めることが可能となるからである。具体的には、緊急輸送道路上の事業実施環境が整った橋梁の耐震対策を優先的に実施・・・(具体的説明)
(3)電源確保
重要インフラ等の機能を維持し、災害被害を軽減させるための解決策の1つとして挙げられることは、災害時にインフラの機能を維持するための電源の確保をすることである。なぜなら、地震時などで電力供給が停止してもインフラの機能が維持できていると被害を軽減することが可能となるからである。具体的には、気象・地震等観測施設や河川監視カメラ、下水道施設などに非常用電源等を確保・・・(具体的説明)。
(4)密集市街地解消
重要インフラ等の機能を維持し、災害被害を軽減させるための解決策の1つとして挙げられることは、密集市街地の解消を促進することである。なぜなら、密集市街地を解消しておくと延焼被害などを軽減することが可能となるからである。具体的には、地震時等に大規模火災の危険性がある密集市街地を優先して、老朽化建築物の撤去や延焼防止性能をもつ建築物への立替・・・(具体的説明)。
※実際にはこんなに多く記述するだけ文字数に余裕はありません。
3.リスクと対応
上記で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとして挙げられることは、コスト不足である。なぜなら、特に地方部では不景気で税収入が乏しく、インフラ機能強化に予算をまわす余裕がないからである。
上記リスクの対策として挙げられることは、国の支援、民間資金活用である。積極的な国の支援により地方部でもインフラ機能強化を促進することができる環境づくりを行うとともに、民間の資金も活用することで更なる促進が期待できる。
※もっとわかりやすいリスクがあるかとは思います。この部分は人それぞれ、地域や立場によっても変わってきます。
4.必要となる要件
上記を遂行するに当たり必要となる要件として、「公衆の利益の優先」、「公正かつ誠実な履行」、「持続可能性の確保」などが挙げられる。公衆の安全、健康及び福利を無視してインフラ機能強化を実施することは許されないし、技術者として、公正な分析と判断に基づき履行しなくてはならない。また、現在及び将来世代の人々の利益のために、自然環境及び人工的に造られた環境を守り、可能な限りその質を高めるよう努め、さらに、予見し得る環境への影響を可能な限り最小にするよう努めなくてはならない。
※色々な書き方があります。
以上
〇まとめ
ざっとまとめてみましたが、これが「正解」というわけではありません(レベルの高い模範論文になっているとは自分でも思いません)。他にもっとよい正解があるかと思います。色々な情報を集め、多くの意見に耳を傾けることによって、更なるレベルアップに努めてください。
※最後まで読んでいただきありがとうございます。