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【令和5年度 技術士第二次試験問題 建設部門 必須科目 Ⅰ-1】について考える。【模範解答イメージあり】

〇問題文

今年は1923(大正12)年の関東大震災から100年が経ち、我が国では、その間にも兵庫県南部地震東北地方太平洋沖地震熊本地震など巨大地震を多く経験している。これらの災害には地震による揺れや津波により、人的被害のみでなく、建築物や社会資本にも大きな被害が生じ復興に多くの時間と費用を要している。そのため、将来発生が想定されている南海トラフ巨大地震、首都直下地震及び日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震の被害を最小化するために、国、地方公共団体等ではそれらへの対策計画を立てている。一方で、我が国では少子高齢化が進展する中で限りある建設技術者や対策に要することができる資金の制約があるのが現状である。

このような状況において、これらの巨大地震に対して地震災害に屈しない強靱な社会の構築を実現するための方策について、以下の問いに答えよ。

(1)将来発生しうる巨大地震を想定して建築物、社会資本の整備事業及び都市の防災対策を進めるに当たり、技術者としての立場で多面的な観点から3つ課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。

(2)前問(1)で抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。

(4)前問(1)~(3)を業務として遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要点・留意点を述べよ。

 

 

〇問題文把握

まずはしっかり問題文を読み込み、背景・現況などを把握しましょう。

背景:関東大震災から100年が経ち、巨大地震を多く経験している。

現状:将来発生が想定されている地震の被害を最小化するために対策計画を立てているが、人手・資金が不足している。

という情報が問題文から読み取れます。

人手不足、資金不足は問題文条件なので「課題」や「リスク」として挙げないでくれということなのでしょう。

また、一般的な地震に関する話題でOKですが、建築物、社会資本整備事業、都市の防災対策について触れる必要がありそうです。

「建築物」、「社会資本整備事業」、「都市」を観点として課題を列挙する方法もOKでしょう。

 

(1)の問題文では、

「多面的な観点から3つ課題を抽出」と通常パターンですね。

 

(1)の課題を考えるとき、思いつく解決策を先に列挙しておくと展開が楽になります

「国土交通白書」「令和5年度予算決定概要」などの知識でもOKですが、今回は、令和5年6月に公表された「【令和5年度】総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」を参考に進めていきます。

 

【解決策候補】を資料から挙げていくとともに、【観点】【課題】となりそうなものを列挙していくと、

・密集市街地の改善整備 ← 観点「都市」、課題「防災力強化」

・住宅・建築物等の耐震化 ← 観点「建築物」、課題「耐震化」

・道路橋の耐震補強の推進 ← 観点「社会資本整備」、課題「耐震化」

・駅や橋梁等の鉄道施設の耐震対策の促進 ← 観点「社会資本整備」、課題「耐震化」

・物流・産業・生活機能が集積する港湾・臨海部の強靱化 ← 観点「社会資本整備」、課題「耐震化」

・空港の滑走路等の耐震対策 ← 観点「社会資本整備」、課題「耐震化」

・災害に強い国土幹線道路ネットワークの構築 ← 観点「社会資本整備」、課題「ルート確保」

・無電柱化の推進 ← 観点「社会資本整備」、課題「ルート確保」

・大規模地震リスクを踏まえた土砂災害対策の推進 ← 観点「都市」、課題「防災力強化」

津波避難施設の整備 ← 観点「建築物」、課題「津波対策強化」

・河川・海岸堤防等のかさ上げ・耐震対策、水門等の自動化等の推進 ← 観点「社会資本整備」、課題「防災力強化」

津波浸水等を軽減するための粘り強い海岸堤防・防波堤等の整備の強化 ← 観点「社会資本整備」、課題「津波対策強化」

・防災集団移転促進事業の拡充 ← 観点「都市」、課題「防災力強化」

海上保安庁による機動力を活かした災害応急活動 ← 観点「都市」、課題「防災力強化」

・首都直下地震時の道路啓開 ← 観点「都市」、課題「ルート確保」

サプライチェーンの多元化や関係者連携等を通じた災害時における強靱な物流システムの構築 ← 観点「都市」、課題「ルート確保」

・災害時の鉄道による物資輸送 ← 観点「社会資本整備」、課題「ルート確保」

・非常災害を想定した航路啓開等輸送訓練の実施 ← 観点「社会資本整備」、課題「防災力強化」

・非常災害を想定した空港における訓練の実施 ← 観点「社会資本整備」、課題「防災力強化」

南海トラフ地震臨時情報、北海道・三陸沖後発地震注意情報等の更なる啓発 ← 観点「都市」、課題「防災力強化」

長周期地震動に対応した防災気象情報の強化 ← 観点「都市」、課題「防災力強化」

・災害時の衛生環境を守るための下水道施設の耐震化やマンホールトイレの設置等の推進 ← 観点「社会資本整備」、課題「耐震化」

・復興事前準備の推進 ← 観点「都市」、課題「早期復興」

・災害時の代替機能確保及び計画の実効性確保 ← 観点「都市」、課題「防災力強化」

帰宅困難者対策の検討 ← 観点「都市」、課題「被災者支援」

帰宅困難者等に対する受入施設整備支援 ← 観点「都市」、課題「被災者支援」

タワーマンション等の長周期地震対策・エレベーター等の地震対策 ← 観点「建築物」、課題「耐震化」

・被災建築物応急危険度判定活動 ← 観点「建築物」、課題「二次的害防止」

・被災者向け住宅等の供給体制の整備 ← 観点「建築物」、課題「被災者支援」

・災害時のがれき・土砂撤去支援 ← 観点「都市」、課題「早期復興」

・命のみなとネットワークの形成による海上から被災地支援体制の強化 ← 観点「都市」、課題「ルート確保」

 

と【観点】【課題】【解決策】の関係が整理できそうです。(ちょっと強引な解釈の部分もありますが・・・)

 

(1)の問題文は「多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ」なので、上記から代表的なものを挙げてみると

 

①建築物の観点から、耐震化が課題 

②社会資本整備の観点から、ルート確保が課題

③都市の観点から、防災力強化が課題

 

の3つの課題を抽出し、各々を分析(背景・現況・問題発生要因・制約要因など)することで記述できるかと思います。

 

(2)の問題文は「抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ」になっていますが、最も重要としなければならないものは特にない気がします。それなりに理由が述べられれば、どれを選択しても問題ないでしょう。解決策の内容が理解でき、論理展開がスムーズにいくものを選択すれば大丈夫でしょう。リスク対策も考慮して選択するのが理想ですが・・・

 

(3)の問題文は「すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ」となっています。

専門技術を踏まえたものが記述できれば高得点も期待できます。

一般的なリスク候補は「費用(コスト)関連」「人材不足関連」「ノウハウ関連」などが考えられますが、解決策に合わせて考えなくてはいけません。

また、「コスト不足」「人材不足」は問題文の条件になっていますので、ここでは挙げないほうがよいでしょう。

 

一般的なリスクと対策の関係は

リスクが「費用(コスト)関連」 → 対策は「国支援」「民間資金活用」「選択と集中で対象を絞る」など

リスクが「人材不足関連」 → 対策は「ナレッジマネジメント活用」「生産性向上」「民間コンサル支援」など

リスクが「ノウハウ関連」 → 対策は「国支援」「民間コンサル支援」「社会実験」「講習会」など

リスクが「時間関連」 → 対策は「積極的な国主導によるスピードアップ」など

など色々なパターンを準備しておきましょう。

この部分はあらかじめ知識の引き出しを増やしておき、試験本番、臨機応変に対応すべきところだと思います。

 

(4)の問題文は「技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要点・留意点を述べよ」となっています。

これは2023年に改訂された「技術士倫理綱領」を引用するのが一般的です。

念のためリンク先は

https://www.engineer.or.jp/c_topics/001/attached/attach_1285_1.pdf

 

技術者としての倫理の観点については、

(安全・健康・福利の優先)

1.技術士は、公衆の安全、健康及び福利を最優先する。

など

 

社会の持続性の観点については、

(持続可能な社会の実現)

2.技術士は、地球環境の保全等、将来世代にわたって持続可能な社会の実現に貢献する。

に書かれている内容と論文全体の内容に沿って記述できれば合格点はもらえるでしょう。

 

以上が問題文を把握し、記述するまでの頭の中の状態です。

 

 

〇記述例

実際の記述例を簡単に記載します。

合格論文ではなく論文イメージであり、たくさんある例の1つです。詳細はご自身で調べ考え、第三者に見てもらうことで上達します。あくまでも参考例(資料抜粋例、文字数無視)であり、これを暗記して対応しようとしても合格はできません

 

1.課題

(1)耐震化(観点:建築物)

 発生の切迫性が指摘されている南海トラフ地震や首都直下地震等に備えるため、住宅・建築物が倒壊・損壊しないように補強する必要性が喫緊の問題となっている。また、平成23年に発生した東北地方太平洋沖地震では、超高層建築物等において長周期地震動の影響とみられる大きな揺れが発生し、エレベーターの閉じ込めや運行の早期復旧が問題となっている。

 したがって、被害の防止・軽減のために耐震化することが課題である。

(2)ルート確保(観点:社会資本整備)

 発災後、概ね1日以内に緊急車両の通行を確保し、概ね1週間以内に一般車両の通行を確保する道路ネットワークを目指しているが、高規格道路が整備されておらず、さらに、一般道に防災課題箇所が存在する災害に脆弱な道路ネットワークになっているのが現状である。また、緊急輸送道路等には電柱が林立しているため、災害時に電柱等が倒壊することによる道路の寸断が発生し、緊急車両の通行を妨げる可能性がある。

 したがって、応急対応のためにルートを確保することが課題である。

(3)防災力強化(観点:都市)

 関東大震災時には地震を原因とした大規模な市街地火災により甚大な被害が発生した。今後想定される首都直下地震等の被害想定においても最も大きな被害が想定されるのは火災と予想されるが、全国には老朽住宅等が密集し、地震時等の防災安全性等が確保されていない密集市街地が存在している状況である。また、自然災害の激甚化・頻発化が進む中、すべての被災想定エリアを堤防や防潮堤等により防御するだけでなく、被災前に集団移転する事前防災まちづくりを進めることも重要であるが、これまでの防災集団移転促進事業の活用事例は災害発生後の移転となっており、事前移転の取り組みが進んでいない状況である。

 したがって、事前防災のために防災力を強化することが課題である。

 

2.解決策

 上記課題のうち最も重要と考える課題は「(2)ルート確保」である。なぜなら・・・(理由を記述)。以下にその解決策を示す。

(1)災害に強い国土幹線道路ネットワークの構築

 ルートを確保するための解決策の1つとして挙げられることは、災害に強い国土幹線道路ネットワークの構築である。なぜなら、・・・(理由説明)。

 具体的には、高規格道路のミッシングリンクの解消や暫定2車線区間の4車線化、高規格道路と代替機能を発揮する直轄国道とのダブルネットワークの強化等を推進する。

(2)無電柱化の推進

 ルートを確保するための解決策の1つとして挙げられることは、無電柱化の推進である。なぜなら、・・・(理由説明)。

 具体的には、「新設電柱の抑制」「コスト縮減」「事業のスピードアップ」を取組姿勢とする「無電柱化推進計画」に基づき、関係省庁、電線管理者、地方公共団体が連携して、無電柱化を推進する。特に緊急輸送道路等の既設電柱について、優先順位を決めて早期に占用制限開始する。

 

※具体的内容は資料のコピペなので、実際はご自身の言葉に直して説明してください。

 

3.リスク対策

 解決策を実行することにより、地震時のルート確保の確実性が増すが、解決策が完了するまでには時間が掛かり、その前に地震が発生してしまうリスクが考えられる。

 その対策としては、積極的な国主導によるスピードアップをはかるとともに、多大な時間を要さないソフト対策も並行して進めていくことが重要である。

 

4.要点、留意点

(1)技術者倫理の観点

 必要となる要点は、公衆の安全、健康及び福利を最優先することである。留意点としては、社会資本整備を優先することで公衆の安全を脅かすことがないように、監視システムなどを強化し、常に最善の提案を行う。

(2)社会持続性の観点

 必要となる要点は、地球環境の保全等、将来世代にわたる社会の持続可能性の確保に努めることである。留意点は、社会資本整備を優先することで地球環境に影響がないか十分に検討し、影響を最小化するよう努める。

 

以上

 

〇まとめ

 ざっとまとめてみましたが、これが「正解」というわけではありません。他にもっとよい正解があるかと思います。色々な情報を集め、多くの意見に耳を傾けることによって、更なるレベルアップに努めてください。

 

※最後まで読んでいただきありがとうございます。