〇問題文
我が国の社会資本は多くが高度経済成長期以降に整備され、今後建設から50年以上経過する施設の割合は加速度的に増加する。このような状況を踏まえ、2013(平成25)年に「社会資本の維持管理・更新に関する当面講ずべき措置」が国土交通省から示され、同年が「社会資本メンテナンス元年」と位置づけられた。これ以降これまでの10年間に安心・安全のための社会資本の適正な管理に関する様々な取組が行われ、施設の現状把握や予防保全の重要性が明らかになるなどの成果が得られている。しかし、現状は直ちに措置が必要な施設や事後保全段階の施設が多数存在するものの、人員や予算の不足をはじめとした様々な背景から修繕に着手できていないものがあるなど、予防保全の観点も踏まえた社会資本の管理は未だ道半ばの状態にある。
(1)これからの社会資本を支える施設のメンテナンスを、上記のようなこれまで10年の取組を踏まえて「第2フェーズ」として位置づけ取組・推進するに当たり、技術者としての立場で多面的な観点から3つ課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。
(2)前問(1)で抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
(4)前問(1)~(3)を業務として遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要点・留意点を述べよ。
〇問題文把握
まずはしっかり問題文を読み込み、背景・現況などを把握しましょう。
背景:2013年「社会資本メンテナンス元年」から10年が経過。
現状:人員や予算の不足をはじめとした様々な背景から修繕に着手できていないものがあるなど、予防保全の観点も踏まえた社会資本の管理は未だ道半ばの状態
課題条件:「第2フェーズ」の取組・推進
という情報が問題文から読み取れます。
これは令和4年12月に公表された「総力戦で取り組むべき次世代の「地域インフラ群再生戦略マネジメント」~インフラメンテナンス第2フェーズへ~」について知っているかどうか確認している問題となります。
「人員や予算の不足」「予防保全」そのものは問題文の条件のため、「課題」や「リスク」として扱ってはいけないということでしょう。
また、「第1フェーズ」ではなく「第2フェーズ」の話題を記述してくださいということでしょう。
(1)の問題文では、
「多面的な観点から3つの課題を抽出」と通常パターンですね。
(1)の課題を考えるとき、思いつく解決策を先に列挙しておくと展開が楽になります。
ですが、この問題は「総力戦で取り組むべき次世代の「地域インフラ群再生戦略マネジメント」~インフラメンテナンス第2フェーズへ~」そのものを聞いているので、資料の内容を確認してみます。
第1フェーズの今後の課題(項目のみ、詳細課題省略)として
(1)メンテナンスサイクルの確立
(2)施設の集約・再編等
(3)多様な契約方法の導入
(4)技術の継承・育成
(5)新技術の活用
(6)データの活用
(7)国民の理解と協力
第2フェーズで速やかに実行すべき施策として
(1)地域の将来像を踏まえた地域インフラ群再生戦略マネジメントの展開
(2)地域インフラ群再生戦略マネジメントを展開するために必要となる市区町村の体制構築
(3)メンテナンスの生産性向上に資する新技術の活用推進、技術開発の促進及び必要な体制の構築
(4)DXによるインフラメンテナンス分野のデジタル国土管理の実現
(5)国民の理解と協力から国民参加・パートナーシップへの進展
となっています。
上記の「課題」と「施策」から【課題】【解決策】として結びつける方法もありますが、内容を結びつけるのが少々難しい印象です。また、あくまでも「第1フェーズ」時の「今後の課題」であって、「第2フェーズの課題なの?」という疑問も出てきそうです。
このような場合は、「第2フェーズの施策」を【課題】として扱うと論理展開が容易になります。
そう考えた場合の【課題候補】は、
(1)地域の将来像を踏まえた地域インフラ群再生戦略マネジメントの展開
(2)地域インフラ群再生戦略マネジメントを展開するために必要となる市区町村の体制構築
(3)メンテナンスの生産性向上に資する新技術の活用推進、技術開発の促進及び必要な体制の構築
(4)DXによるインフラメンテナンス分野のデジタル国土管理の実現
(5)国民の理解と協力から国民参加・パートナーシップへの進展
の5つになります。
(1)の問題文は「多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ」なので、観点も含めて整理してみると(観点は適当ですが・・・)
(1)将来の観点から、地域の将来像を踏まえた地域インフラ群再生戦略マネジメントの展開が課題
(2)体制の観点から、地域インフラ群再生戦略マネジメントを展開するために必要となる市区町村の体制構築が課題
(3)技術の観点から、メンテナンスの生産性向上に資する新技術の活用推進、技術開発の促進及び必要な体制の構築が課題
(4)データの観点から、DXによるインフラメンテナンス分野のデジタル国土管理の実現が課題
(5)国民の観点から、国民の理解と協力から国民参加・パートナーシップへの進展が課題
上記5つから3つの課題を抽出し、各々を分析(背景・現況・問題発生要因・制約要因など)することで記述できるかと思います。
(2)の問題文は「抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ」になっています。最も重要としなければならないものは特にないとは思いますが、「(1)地域の将来像を踏まえた地域インフラ群再生戦略マネジメントの展開」は第2フェーズの目玉にも感じ取れるので、これを選択するのが無難かとは思います。
それなりに理由が述べられれば、どれを選択しても問題ないでしょう。
解決策の内容が理解でき、論理展開がスムーズにいくものを選択すれば大丈夫でしょう。
【課題】と【解決策】の関係を資料から抜粋すると、
(1)地域の将来像を踏まえた地域インフラ群再生戦略マネジメントの展開
①地域の将来像を踏まえた地域インフラ群再生戦略マネジメントの展開
②更新、集約・再編に合わせた機能追加
③個別施設計画の質的充実等によるメンテナンスサイクル実効性向上
④首長のイニシアティブによる市区町村におけるインフラメンテナンスの強力な推進
(2)地域インフラ群再生戦略マネジメントを展開するために必要となる市区町村の体制構築
①包括的民間委託等による広域的・分野横断的な維持管理の実現
②市区町村技術者に今後求められる技術力の明確化・強化
③メンテナンスの生産性向上を図るためのツールの構築
(3)メンテナンスの生産性向上に資する新技術の活用推進、技術開発の促進及び必要な体制の構築
①メンテナンス産業の生産性向上に資する新技術の活用推進、技術開発の促進
②AI・新技術等の活用も見据えた体制の構築
③将来維持管理・更新費の推計の見直し
(4)DXによるインフラメンテナンス分野のデジタル国土管理の実現
①設計・施工時や点検・診断・補修時のデータ利活用によるデジタル国土管理の実現
②インフラマネジメントの高度化に向けたデータ利活用方策の検討
③セキュリティ対策の推進
(5)国民の理解と協力から国民参加・パートナーシップへの進展
①インフラメンテナンスへの国民・地域の関心の更なる向上
②優れたメンテナンス活動の横展開の強化
③メンテナンス活動への国民参加の促進と参加を通じた真のパートナーシップの構築
となります。
※【課題】と【解決策】が同じ言葉のところは少し表現を変えて対応しましょう。
(3)の問題文は「すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策」となっています。
専門技術を踏まえたものが記述できれば高得点も期待できます。
リスク候補は「費用(コスト)関連」「人材不足関連」「ノウハウ関連」などが考えられますが、解決策に合わせて考えなくてはいけません。
また、「人材不足」「コスト不足」は問題文の条件になっていますので、ここでは挙げないほうがよいでしょう。
一般例を挙げると、
リスクが「費用(コスト)関連」 → 対策は「国支援」「民間資金活用」「選択と集中で対象を絞る」など
リスクが「人材不足関連」 → 対策は「ナレッジマネジメント活用」「生産性向上」「民間コンサル支援」など
リスクが「ノウハウ関連」 → 対策は「国支援」「民間コンサル支援」「社会実験」「講習会」など
リスクが「時間関連」 → 対策は「積極的な国主導によるスピードアップ」など
など色々なパターンを準備しておきましょう。
この部分はあらかじめ知識の引き出しを増やしておき、試験本番、臨機応変に対応すべきところだと思います。
資料から抜粋できそうなものがあれば、それを活用しても問題ないでしょう。
(4)の問題文は「技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要点、留意点を述べよ」となっています。
これは2023年に改訂された「技術士倫理綱領」を引用するのが一般的です。
念のためリンク先は
https://www.engineer.or.jp/c_topics/001/attached/attach_1285_1.pdf
技術者としての倫理の観点については、
(安全・健康・福利の優先)
1.技術士は、公衆の安全、健康及び福利を最優先する。
など
社会の持続性の観点については、
(持続可能な社会の実現)
2.技術士は、地球環境の保全等、将来世代にわたって持続可能な社会の実現に貢献する。
に書かれている内容と論文全体の内容に沿って記述できれば合格点はもらえるでしょう。
以上が問題文を把握し、記述するまでの頭の中の状態です。
〇記述例
実際の記述例を簡単に記載します。
(合格論文ではなく論文イメージであり、たくさんある例の1つです。詳細はご自身で調べ考え、第三者に見てもらうことで上達します。あくまでも参考例(資料抜粋例、文字数無視)であり、これを暗記して対応しようとしても合格はできません)
1.課題
(1)地域の将来像を踏まえた地域インフラ群再生戦略マネジメントの推進
市区町村が抱える課題や社会情勢の変化を踏まえ、新たなインフラマネジメントに関する取組として、既存の行政区域に拘らず、広域的な視点でインフラの機能を検討していくことや、複数・多分野の施設を「群」としてまとめて捉え、各地域の将来像を踏まえた必要な機能を検討し、現状の性能も踏まえた上で、維持/補修・修繕/更新/集約・再編/新設の実施をマネジメントする体制を構築する必要がある。一方で、複数・広域・多分野のインフラ施設を「群」として捉えマネジメントする場合においても、個別施設の予防保全型のメンテナンスサイクルを確立し、実効性を高めていくことは必要である。そのため、個別施設計画の質的充実を図るとともに、依然として多数存在している補修・修繕が必要な施設や、更新及び集約・再編への様々な取組を行うことが必要である。
したがって、将来の観点から、「第2フェーズ」の取組を推進するため、地域の将来像を踏まえた地域インフラ群再生戦略マネジメントを推進することが課題である。
(2)地域インフラ群再生戦略マネジメントを展開するために必要となる市区町村の体制構築
戦略マネジメントの展開にあたって、インフラメンテナンスに必要な人員や予算が不足している小規模な市区町村に代表される地方公共団体において、メンテナンスの生産性の向上を通じてインフラ施設の必要な機能・性能を維持し国民・市民からの信頼を引き続き確保する必要がある。この際、民間活力や新技術の活用も念頭に、必要な組織体制を構築するとともに、今後求められる技術力を明確化し、育成する必要がある。また、国は、地域間の技術的格差によるインフラ機能への支障が生じないよう、市区町村の新技術活用状況や民間活力等の導入状況などについて俯瞰的に分析し、情報を共有した上で、必要な施策を実施する役割を担うことが求められている。
したがって、体制の観点から、「第2フェーズ」の取組を推進するため、地域インフラ群再生戦略マネジメントを展開するために必要となる市区町村の体制を構築することが課題である。
(3)メンテナンスの生産性向上に資する新技術の活用推進、技術開発の促進及び必要な体制の構築
複数・広域・多分野のインフラ施設を「群」として捉え、マネジメントしていく戦略マネジメントを展開していくにあたって、引き続き新技術の開発、導入の更なる促進を図る必要がある。また、建設業以外の異業種等の参画により、前例がない技術の活用促進を通じたイノベーションを図るなど、新技術活用促進に必要な体制を構築する必要がある。これらの取組を通じて、インフラメンテナンスに関する市場を生み出し、自立化、更には国際競争力のある産業として育成していくことが求められる。
したがって、技術の観点から、「第2フェーズ」の取組を推進するため、メンテナンスの生産性向上に資する新技術の活用推進、技術開発の促進及び必要な体制を構築することが課題である。
2.解決策
上記課題のうち最も重要と考える課題は「(1)地域の将来像を踏まえた地域インフラ群再生戦略マネジメントの推進」である。なぜなら・・・(理由を簡単に記述)。以下にその解決策を示す。
(1)地域の将来像を踏まえた地域インフラ群再生戦略マネジメントの展開
地域の将来像を踏まえた地域インフラ群再生戦略マネジメントを推進するための解決策の1つとして挙げられることは、地域の将来像を踏まえた地域インフラ群再生戦略マネジメントの展開である。なぜなら、・・・(理由説明)。
具体的には、予防保全が確立しても従来の個別施設のメンテナンスを単独の市区町村で継続することには限界があるため、既存の行政区域に拘らず、都道府県内の複数の市区町村を一つの単位とした広域の地域において、社会情勢の変化や地域の将来像等に基づき、複数・広域・多分野のインフラについて分野横断的に必要な機能(①維持すべき機能、②新たに加えるべき機能、③役割を果たした機能)を検討し、現状の性能も踏まえた上で、維持/補修・修繕/更新/集約・再編/新設の実施に関する戦略的判断を実施する。
(2)更新、集約・再編に合わせた機能追加
地域の将来像を踏まえた地域インフラ群再生戦略マネジメントを推進するための解決策の1つとして挙げられることは、更新、集約・再編に合わせた機能を追加することである。なぜなら、・・・(理由説明)。
具体的には、予防保全の考え方でメンテナンスを行いつつも、インフラの持つ機能のうち、維持すべき機能や向上させるべき機能、役割を果たした機能を整理し、現状の性能も踏まえた上で、更新、集約・再編の実施タイミング、施設の機能転換や用途転用による有効活用、更新時に追加すべき機能等の検討を行う。例えば、機能の向上としては、道路における交通容量の増加や自動運転に対応した構造への改変や、気候変動等を踏まえた防災機能のグレードアップ等が想定され、役割を果たした機能としては、人口減少で利用する住民が少なくなった施設を集約の対象とすることなどが想定される。
(3)個別施設計画の質的充実等によるメンテナンスサイクル実効性向上
地域の将来像を踏まえた地域インフラ群再生戦略マネジメントを推進するための解決策の1つとして挙げられることは、個別施設計画の質的充実等によるメンテナンスサイクル実効性を向上することである。なぜなら、・・・(理由説明)。
具体的には、一巡目点検を終えて補修・修繕が必要なインフラのボリュームが明らかになったことを踏まえ、補修・修繕に対し、補助金・交付金等の財政的支援を引き続き行い、事後保全段階にある施設に対する補修・修繕を加速化するとともに、予防保全への転換を促進し、より実効性の高いメンテナンスサイクルの確立を図り、インフラ施設の必要な機能・性能を維持し国民・市民からの信頼を確保し続ける。
※具体的内容は資料のコピペなので、実際はご自身の言葉に直して説明してください。
3.リスクとそれへの対策
(1)リスク
解決策を実行することにより、「第2フェーズ」を取り組みが推進されるが、取組を進めるにあたっては、分野によって予算制度、技術基準等が異なることから様々な課題が生じるリスクが考えられる。
(2)対策
対策としては、各地域の現状を踏まえつつ、制度等の見直しも含め検討を進める。
※リスク対策はイマイチですね・・・
4.要点、留意点
(1)技術者倫理の観点
必要となる要点は、公衆の安全、健康及び福利を最優先することである。留意点としては、インフラメンテナンスを優先することで公衆の安全を脅かすことがないように、監視システムなどを強化し、常に最善の提案を行う。
(2)社会持続性の観点
必要となる要点は、地球環境の保全等、将来世代にわたる社会の持続可能性の確保に努めることである。留意点は、インフラメンテナンスを優先することで地球環境に影響がないか十分に検討し、影響を最小化するよう努める。
以上
〇まとめ
ざっとまとめてみましたが、これが「正解」というわけではありません。他にもっとよい正解があるかと思います。色々な情報を集め、多くの意見に耳を傾けることによって、更なるレベルアップに努めてください。
※最後まで読んでいただきありがとうございます。