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【令和3年度 技術士第二次試験問題 建設部門 必須科目 Ⅰ-1】について考える。【模範解答イメージあり】

〇問題文

近年、地球環境問題がより深刻化してきており、社会の持続可能性を実現するために「低炭素社会」、「循環型社会」、「自然共生社会」の構築はすべての分野で重要な課題となっている。社会資本の整備や次世代への継承を担う建設分野においても、インフラ・設備・建築物のライフサイクルの中で、廃棄物に関する問題解決に向けた取組をより一層進め、「循環型社会」を構築していくことは、地球環境問題の克服と持続可能な社会基盤整備を実現するために必要不可欠なことである。このような状況を踏まえて以下の問いに答えよ。

(1)建設分野において廃棄物に関する問題に対して循環型社会の構築を実現するために、技術者としての立場で多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。

(2)前問(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行して生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。

(4)前問(1)~(3)の業務遂行に当たり、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要件、留意点を述べよ。

 

 

〇問題文把握

まずはしっかり問題文を読み込み、背景・現況などを把握しましょう。

背景:近年、地球環境問題がより深刻化。建設分野において、廃棄物に関する問題解決に向けた取組を進め、「循環型社会」を構築していくことは必要不可欠

立場:技術者(細かい設定なし)

という情報が問題文から読み取れます。

低炭素社会」、「循環型社会」、「自然共生社会」のうち、「循環型社会」にのみ注目する問題となっていますので、そこさえ間違わなければ、特に注意する問題文ではないでしょう。

 

(1)の問題文では、

「多面的な観点から3つの課題を抽出」となっていますので、課題は3つと個数指定されています。

また、「それぞれの観点を明記したうえで」となっていますので、それぞれの観点をはっきり記述する必要もあります。

 

(1)の課題を考えるとき、思いつく解決策を先に列挙しておくと展開が楽になります

ですが、令和2年9月30日に公表された「建設リサイクル推進計画2020」を読むと、主要課題がすでに3つあります

今回の場合は、この資料に合わせて論理展開することが高得点につながりそうです。

 

【課題候補】として、資料をもとに挙げていくと

①建設副産物の高い再資源化率の維持等、循環型社会形成へのさらなる貢献

②社会資本の維持管理・更新時代到来への配慮

③建設リサイクル分野における生産性向上に資する対応等

 

【解決策候補】も同様に、資料をもとに挙げていくと

1.再生資材の利用促進 → 課題①②に対応

2.優良な再資源化施設への搬出 → 課題①に対応

3.建設混合廃棄物等の再資源化のための取り組み → 課題①②に対応

4.建設発生土の有効利用及び適正な取扱の促進 → 課題①に対応

5.社会情勢の変化を踏まえた排出抑制に向けた取り組み → 課題②に対応

6.再生クラッシャランの利用状況・物流等の把握 → 課題②に対応

7.激甚化する災害への対応 → 課題②に対応

8.建設副産物のモニタリングの強化 → 課題③に対応

9.建設発生土の適正処理促進のためのトレーサビリティ → 課題③に対応

10.広報の強化 → 課題③に対応

11.新技術活用促進 → 課題③に対応

 

上記から【課題】【解決策】を整理すると

・(再資源化率向上の観点) 課題が「循環型社会形成へのさらなる貢献」 → 解決策は1、2、3、4     

・(インフラ老朽化の観点) 課題が「社会資本の維持管理・更新時代到来への配慮」 → 解決策は1、3、5、6、7  

・(効率化の観点) 課題が「建設リサイクル分野における生産性向上に資する対応」 → 解決策は8、9、10、11 

という整理になるかと思います。(観点は適当に決めています。この話題の場合、モノ、カネ、ヒト、安全、環境などの観点で論じるのは困難です。)

 

(1)の問題文は「多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ」なので、

再資源化率向上の観点から循環型社会形成へさらに貢献することが課題 

②インフラ老朽化の観点から社会資本の維持管理・更新時代到来へ配慮することが課題

③効率化の観点からより建設リサイクル分野における生産性向上に資する対応を行うことが課題

 

の3つの課題を抽出し、各々を分析(背景・現況・問題発生要因・制約要因など)することで記述できるかと思います。

 

(2)の問題文は「抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ」になっていますが、最も重要としなければならないものは特にない気がします。それなりに理由が述べられれば、どれを選択しても問題ないでしょう。論理展開がスムーズにいくものを選択しましょう。

 

(3)の問題文は「すべての解決策を実行して生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ」となっています。

昨年の場合は「懸案事項」という言葉でしたが、「懸念事項」に変わっても大きな違いはないかと思いますので、特に気にする必要はないでしょう。

専門技術を踏まえたものが記述できれば高得点も期待できます。

基本的な流れは解決策実行によるプラス効果を波及効果して挙げ、次にマイナス効果を懸念事項として挙げ、その対応策を述べるという手順になります。

波及効果にはマイナス面も存在しますので、マイナス効果=波及効果=懸念事項というパターンも考えられます。

一般的なプラス効果の波及効果はモノ、カネ、ヒトなどの話題(品質がよくなる、経済が潤う、コストダウンにつながる、人手が少なくても対応できる)になることが多いですが、問題文に合わせて調整しましょう。

懸念事項はリスクと基本同じで考えでも問題ないでしょう。

懸念事項候補は「費用(コスト)関連」「人材不足関連」「ノウハウ関連」などが考えられますが、解決策に合わせて考えなくてはいけません。

 

懸念事項が「費用(コスト)関連」 → 対策は「国支援」「民間資金活用」「選択と集中で対象を絞る」など

懸念事項が「人材不足関連」 → 対策は「ナレッジマネジメント活用」「生産性向上」「民間コンサル支援」など

懸念事項が「ノウハウ関連」 → 対策は「国支援」「民間コンサル支援」「社会実験」「試行運用」など

懸念事項が「時間関連」 → 対策は「積極的な国主導によるスピードアップ」など

など色々なパターンを準備しておきましょう。

この部分はあらかじめ知識の引き出しを増やしておき、試験本番、臨機応変に対応すべきところだと思います。

 

(4)の問題文は「技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要件、留意点を述べよ」となっています。

これは平成23年に改訂された「技術士倫理綱領の解説」を引用するのが一般的です。

念のためリンク先は

https://www.engineer.or.jp/c_topics/000/attached/attach_25_3.pdf

 

技術者としての倫理の観点については、

(公衆の利益の優先)技術士は公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮する。

 

社会の持続性の観点については、

(持続可能性の確保)技術士は、地球環境の保全等、将来世代にわたる社会に持続性の確保に努める。

 

に書かれている内容と論文全体の内容に沿って記述できれば合格点はもらえるでしょう。

 

以上が問題文を把握し、記述するまでの頭の中の状態です。

 

 

〇記述例

実際の記述例を簡単に記載します。

合格論文ではなく論文イメージであり、たくさんある例の1つです。詳細はご自身で調べ考え、第三者に見てもらうことで上達します。あくまでも参考資料であり、これを暗記して対応しようとしても合格はできません

 

1.課題

(1)循環型社会形成へのさらなる貢献

 平成30年度建設副産物実態調査によれば、建設廃棄物全体の再資源化・縮減率は約97%となっており、高い率を維持している。その一方、搬出量については前回調査と比較すると若干増加傾向にある。例えば、建設発生土の不適切な処理など、地域毎に異なる建設リサイクルの課題も顕在化しつつあることから、長期的には最終処分されている廃棄物の質にも着目しながら、引き続き、高い再資源化率等を維持するための取り組みが必要である。

 したがって、再資源化率向上の観点から、循環型社会の構築を実現するため、建設副産物の高い再資源化率の維持等、循環型社会形成へさらに貢献することが課題である。

(2)社会資本の維持管理・更新時代到来への配慮

 高度経済成長期に整備された社会資本が老朽化し、本格的な維持管理・更新の時代に突入している。長期的には、再生資材により整備された社会資本から発生する廃棄物の再リサイクル化が必要となる可能性もあり、中長期的には建設業における建設副産物の発生動向も変化していくことが想定される。一方で、良質な社会資本を整備し、その長寿命化を図っていくことは発生抑制につながることから、中長期的な観点を持ちつつ、施策を実施する配慮が必要である。

 したがって、インフラ老朽化の観点から、循環型社会の構築を実現するため、社会資本の維持管理・更新時代到来へ配慮することが課題である。

(3)生産性向上に資する対応

 人口減少時代においても、経済活動の礎となる社会資本整備におけるリサイクル推進は重要である。日本全体の労働人口が減少傾向であることを踏まえ、政府全体として生産性向上の取り組みを促進しており、今後、建設リサイクルの分野においても、積極的にICT技術等を活用し、各種手続きや統計調査の効率化等の取り組みを進めていく必要がある。

 したがって、効率化の観点から、循環型社会の構築を実現するため、建設リサイクル分野における生産性向上に資する対応を行うことが課題である。

 

2.解決策

 上記課題のうち最も重要と考える課題は「(1)循環型社会形成へのさらなる貢献」である。なぜなら・・・(理由を記述)。以下にその解決策を示す。

(1)再生資材の利用促進

 循環型社会形成へさらに貢献するための解決策の1つとして挙げられることは、再生資材の利用促進である。なぜなら、再生資材の利用を促進することで、高い再資源化率等を維持することができ、循環型社会形成へさらに貢献することができるからである。

 具体的には、再生資材の利用状況に関する新たな指標(再生資材利用率など)の導入検討を行うことで、リサイクルの質の向上においては現時点では十分に把握できていない再生資材の利用状況等を適切に把握していく。また、他産業副産物についても、地域の実情に応じて、建設廃棄物由来の再生資材との利用バランスを確保しつつ、また有害物質の含有・溶出に関する品質・影響等も考慮しながら、グリーン調達に基づき、建設工事での有効利用を促進する。

(2)優良な再資源化施設への搬出

 循環型社会形成へさらに貢献するための解決策の1つとして挙げられることは、優良な再資源化施設へ搬出することである。なぜなら、優良な再資源化施設へ搬出することで、高い再資源化率等を維持することができ、循環型社会形成へさらに貢献することができるからである。

 具体的には、建設混合廃棄物や建設汚泥の再資源化・縮減率等が高いなど優良と考えられる再資源化施設への搬出を推進する。また、建設混合廃棄物や建設汚泥の再資源化施設への搬出を促進するため、直接最終処分についての実態調査・分析を実施し、その結果を踏まえ、民間企業も含めた受発注者に対して再資源化施設への搬出徹底を要請する。

(3)建設混合廃棄物等の再資源化のための取り組み

 循環型社会形成へさらに貢献するための解決策の1つとして挙げられることは、建設混合廃棄物等の再資源化のための取り組みを行うことである。なぜなら、建設混合廃棄物等の再資源化のための取り組みを行うことで、高い再資源化率等を維持することができ、循環型社会形成へさらに貢献することができるからである。

 具体的には、建設混合廃棄物の排出削減を促進するため、建設混合廃棄物について、調査・分析を実施し、その結果を踏まえ、民間企業も含めた受発注者に対して分別可能な混入物の現場分別の徹底を要請する。また、建設工事から発生する廃プラスチックの分別・リサイクルを促進するため、廃プラスチックのデータ等の収集・分析を実施するとともに、意見交換・処理施設視察等により、産業廃棄物処理業者と民間企業との連携を促進し、必要に応じて目標の指標について検討する。

(4)建設発生土の有効利用及び適正な取扱の促進

 循環型社会形成へさらに貢献するための解決策の1つとして挙げられることは、建設発生土の有効利用及び適正な取扱を促進することである。なぜなら、建設発生土の有効利用及び適正な取扱の促進することで、高い再資源化率等を維持することができ、循環型社会形成へさらに貢献することができるからである。

 具体的には、中期的な建設発生土の需給動向を地域レベルで把握し、事業発注前より工事間利用等の調整を行うとともに、建設発生土の有効利用を図るため、公共工事の発注者の責務として、建設発生土に係る情報交換システムを活用し、建設発生土の搬出、搬入についてシステムへのデータ登録及び情報管理の徹底を行う。また、建設発生土の更なる有効利用を図るため、官民一体となった発生土の相互有効利用のマッチングを強化するためのシステム(建設発生土の官民有効利用マッチングシステム)への、民間企業も含めた受発注者の参画を一層働きかける。

※4つも解決策は記述できないかと思います。また、具体的内容は資料のコピペなので、実際はご自身の言葉に直して説明しないと単なる丸暗記だと評価されてしまうかもしれません。

 

3.波及効果、懸念事項への対応策

(1)波及効果

 解決策を実行することにより、建設リサイクルがより推進されることで、建設リサイクル市場の規模が拡大し産業としての位置づけが今後ますます重要となってくるものと考えられる。新たな産業創出としての位置づけも有しており、雇用増加、技術開発等を通じた他産業への波及効果も含めて、我が国の経済成長に寄与する効果が期待できる。

(2)懸念事項への対応策

 懸念事項としては、品目別に見れば、地方等によって、全国の平均的なリサイクルのレベルより低い品目があるなど、個別品目の課題は残存しており、地方特有の課題について、地方別に努力していく必要がある。

 対応策として、各地域で生じている建設廃棄物に係る課題を解消するため、地方公共団体と連携して関係業界と意見交換するとともに、各地方の協議会等を中心に地域固有の課題を抽出し、民間企業も含めた受発注者とその解決を図っていく。

 

4.要件、留意点

(1)技術者倫理の観点

 必要となる要件は、公衆の安全、健康及び福利を最優先することである。留意点としては、廃棄物問題を解決させることを優先することで公衆の安全を脅かすことがないように、監視システムなどを強化し、常に最善の提案を行う。

(2)社会持続性の観点

 必要となる要件は、地球環境の保全等、将来世代にわたる社会の持続可能性の確保に努めることである。留意点は、廃棄物問題を解決させることで地球環境に影響がないか十分に検討し、影響を最小化するよう努める。

 

以上

 

〇まとめ

 ざっとまとめてみましたが、これが「正解」というわけではありません。他にもっとよい正解があるかと思います。色々な情報を集め、多くの意見に耳を傾けることによって、更なるレベルアップに努めてください。

 

※最後まで読んでいただきありがとうございます。