〇問題文
甚大な被害をもたらした東日本大震災から9年が経過したが、その後も、大きな地震や集中的な豪雨、豪雪による甚大な被害が発生しており、また今後も首都直下地震や南海トラフ巨大地震が高い確率で発生することが予想されている。このような状況を踏まえ、道路の防災対策に携わる技術者として、以下の問いに答えよ。
(1)激甚化・頻発化する災害に備え、道路が発災時に救命救急・復旧活動や広域的な物資の輸送等に貢献し続けるため、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し、その内容を観点とともに示せ。
(2)前問(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行した上で生じる波及効果と、新たな懸案事項への対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
〇問題文把握
まずはしっかり問題文を読み込み、背景・現況などを把握しましょう。
現状:災害により甚大な被害が発生、今後も巨大地震が高い確率で発生すると予想される
現在:激甚化・頻発化する災害に備える
目標(目的):道路が発災時に救命救急・復旧活動や広域的な物資の輸送等に貢献し続ける
立場:道路の防災対策に携わる技術者
という情報が問題文から読み取れます。
地震災害と指定しているわけでもありませんので、どのような災害の話題でもOKということでしょう。
また、災害に備える話題ですので、発災前の防災・減災、発災後の早期復旧などの話題になりそうです。
(1)の課題を考えるとき、思いつく解決策を先に列挙しておくと展開が楽になります。
【解決策候補】として、思いつくものを挙げていくと、
(参考資料:道路の耐災害性強化に向けた提言)
①「発災後の統括的交通マネジメント」実施体制の制度化
②非常時における柔軟な車線運用のメニュー化と共有
③災害に配慮した道路構造令等の見直し
④道路ネットワークの耐災害性評価手法の充実と沿道リスクアセスメント制度の導入
⑤迅速な復旧に向けたトレーニング強化
⑥徒歩避難が困難な場合の避難手段の検討
⑦踏切立体化の推進(耐震補強や無電柱化)
⑧被災地に向かう特殊車両の通行許可審査に対する優先処理
⑨停電時に道の駅の非常用発電機を機能
などが挙げられると思います。
※もちろん、他にも解決策となりそうな候補はたくさんあります。
上記【解決策候補】の【課題】を考えてみましょう。
(【解決策】の反対が【課題】になるイメージで考えるとわかりやすいかもしれません)
①の課題 → 各地域において、発災時、交通マネジメントに係る統合的な組織を構築し、渋滞対策を検討したい
②の課題 → 災害発生後、一部の車線が使えなくなっても他の車線などを柔軟に使うことで通行止めを防ぎたい
③の課題 → 災害時に道路に一定の欠損が生じても通行止めとならないような道路構造で整備したい
④の課題 → 道路区域外に起因する災害で道路ネットワークが寸断されないよう、道路区域外災害リスクも検討したい
⑤の課題 → 迅速に道路ネットワークを復旧させるため、国や地方自治体などをもっと連携させる仕組みを構築したい
⑥の課題 → 地域の実情に応じて、徒歩以外でも安全かつ確実に避難できる方策をあらかじめ検討することで被害を軽減させたい
⑦の課題 → 踏切の遮断による救急活動等への支障を防止したい
⑧の課題 → 特殊車両の通行許可審査の遅れによる重機運搬や支援物資の遅延を防止したい
⑨の課題 → エネルギー障害による状況把握の遅れや通行止めの長期化を防止したい
というような流れになるかと思います。
上記から【課題】【解決策】を整理すると
・(発災前のハード面防災の観点) 課題が「ハード対策強化」 → 解決策は③⑦⑨
・(発災前のソフト面防災の観点) 課題が「ソフト対策強化」 → 解決策は①④⑤⑥⑧
・(発災後の通行確保の観点) 課題が「通行止め防止」 → 解決策は②③④⑨
という整理になるかと思います。(強引なところもありますね・・・また、共通する解決策が多くなってしまいました・・・)
(1)の問題文は「多面的な観点から課題を抽出し、その内容を観点とともに示せ」なので、
①発災前のハード面防災の観点からハード対策を強化することが課題
②発災前のソフト面防災の観点からソフト対策を強化することが課題
③発災後の通行確保の観点から道路の通行止めを防止することが課題
の3つの課題を抽出し、各々を分析(背景・現況・問題発生要因・制約要因など)することで記述できるかと思います。
(2)の問題文は「前問(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ」であるが、最も重要となりそうなものは、「早く安く効果的」ができる②ソフト対策強化が候補となりそうです。②以外であっても、もっともらしい理由が述べられれば何を選択しても特に問題ないかと思います。
(3)の問題文は「前問(2)で示したすべての解決策を実行した上で生じる波及効果と、新たな懸案事項への対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ」となっており、リスクではなく波及効果という表現になっています。
波及効果とは、「波が広がっていくように、徐々に効果が広い範囲に及んでいくこと」のような意味と解釈すると、リスクのようにマイナスイメージだけでなくプラスイメージの効果もOKということなのでしょう。
また、すべての解決策を実行した上で生じる波及効果なので、共通して生じる効果を記述する必要があります。
どのような候補が存在するか今の時点ではわかりませんが、「カネ」「ヒト」「モノ」「ノウハウ」などが中心になるものと予想されます。
また、専門技術を踏まえた話題にする必要がありますので、道路専門技術に関するキーワードも含めることになりそうです。
以上が問題文を把握し、記述するまでの頭の中の状態です。
〇記述例
実際の記述例を簡単に記載します。
(合格論文ではなく論文イメージであり、たくさんある例の1つです。詳細はご自身で調べ考え、第三者に見てもらうことで上達します。あくまでも参考資料であり、これを暗記して対応しようとしても合格は不可能です)
1.課題
(1)ハード対策強化
災害時、道路に一定の欠損が生じただけで通行止めにせざるを得なかった道路構造が問題となり、救命救急・復旧活動が遅れた事例が発生した。また、踏切の長時間遮断や電柱倒壊による救急活動等への支障、停電などによるエネルギー障害で状況把握の遅延や信号停電などによる長時間通行止め事例も発生していた。これらはハード施設の損傷が原因となって、救命救急・復旧活動などに支障をきたしている状況であった。
したがって、発災前のハード面防災の観点から、道路が発災時に貢献し続けるために、ハード対策を強化することが課題である。
(2)ソフト対策強化
災害時、通行規制・交通集中による渋滞が発生し、交通マネジメントによる渋滞対策が必要不可欠となった事例が発生した。また、国と地方自治体の連携不足による救命救急・復旧活動の遅延、徒歩による避難での逃げ遅れ、さらに、特殊車両の通行許可審査の遅れによる重機運搬や支援物資の遅延事例も発生していた。これらはソフト対策の強化不足が原因となって、救命救急・復旧活動などに支障をきたしている状況であった。
したがって、発災前のソフト面防災の観点から、道路が発災時に貢献し続けるために、ソフト対策を強化することが課題である。
(3)通行止め防止
災害時、一部の車線が使えなくなり片側車線のみの通行となったことで救命救急・復旧活動の遅延事例が発生した。また、道路区域外に起因する斜面災害、隣接する河川の増水や倒木等、横断構造物や隣接する建造物の耐震性不足などにより幹線道路ネットワーク機能の確保ができなかった事例も発生していた。これらは道路の通行止めが原因となって、救命救急・復旧活動などに支障をきたしている状況であった。
したがって、発災後の通行確保の観点から、道路が発災時に貢献し続けるために、道路の通行止めを防止することが課題である。
2.解決策
上記課題のうち最も重要と考える課題は「(2)ソフト対策強化」である。なぜなら、早期に安価で高い効果が期待でき、・・・(理由を記述)。以下にその解決策を示す。
(1)「発災後の統括的交通マネジメント」実施体制の制度化
ソフト対策を強化するための解決策の1つとして挙げられることは、災害発生前の常時から交通マネジメントに係る統合的な組織を構築することである。なぜなら、常時から組織を構築することで災害が発生した時には速やかに災害時の実施体制に移行することができ、統括的かつ強力な交通マネジメントによる渋滞対策を実施することができるからである。
具体的には、「発災後の統括的交通マネジメント」実施体制を制度化し・・・(具体的説明)。
(2)迅速な復旧に向けたトレーニング強化
ソフト対策を強化するための解決策の1つとして挙げられることは、国と地方自治体が常時から連携して、被災状況を踏まえた計画の策定方針を事前に議論することである。なぜなら、常時から連携して事前に議論しておくことで幹線道路から末端の地方道まで一体となった復旧計画を迅速に行うことができるからである。
具体的には、迅速な復旧に向けたトレーニングを強化・・・(具体的説明)。
(3)徒歩避難が困難な場合の避難手段の検討
ソフト対策を強化するための解決策の1つとして挙げられることは、各地域の特色に合わせて避難手段を見直すことである。なぜなら、自動車が日常の移動手段となっている地方部等においては、実際に多くの人が自動車で避難しているという実態があり、避難計画が机上の空論となっているからである。
具体的には、徒歩避難が困難な場合の避難手段の検討・・・(具体的説明)。
(4)被災地に向かう特殊車両の通行許可審査に対する優先処理
ソフト対策を強化するための解決策の1つとして挙げられることは、被災地に向かう特殊車両の通行許可審査時間を短縮することである。なぜなら、被災地に向かう特殊車両が遅れることで救命救急・復旧活動に遅れが生じ、助かる命も助けられなくなるからである。
具体的には、被災地に向かう特殊車両の通行許可審査に対する優先処理・・・(具体的説明)。
※他にもたくさん解決策はありますし、4つ記述する必要もありません。
3.波及効果、懸案事項への対策
上記で示したすべての解決策を実行した上で生じる波及効果として挙げられることは、ノウハウ不足である。特に地方自治体は通常業務が多忙であり、新しいことを一から取組み実践する余裕がない状況である。
上記波及効果は新たな懸案事項とも考えられ、その対策として挙げられることは、国による積極的な支援である。国が主導となり、地方自治体を引っ張っていくことで、ソフト対策が強化され、道路が発災時に救命救急・復旧活動や広域的な物資の輸送等に貢献し続けることができる。また、ETC2.0等の ICT を活用した情報収集・発信方法を共有することで、地方自治体の負担軽減をはかることも有効である。
※この部分は個性が現れる部分であり、色々な表現ができそうです。また、ソフト対策をメインにすると専門技術をうまく表現できないですね・・・
以上
〇まとめ
ざっとまとめてみましたが、これが「正解」というわけではありません。他にもっとよい正解があるかと思います。色々な情報を集め、多くの意見に耳を傾けることによって、更なるレベルアップに努めてください。
※最後まで読んでいただきありがとうございます。